第304話 蓮見VS葉子 前編


 トッププレイヤーの首を取ろうと本気の者達とその者達を一掃し自分の力を試すかのように全力で奮う者達。

 生と死の駆け引き。

 そんなギリギリの戦いに魂を燃やす者達の戦いは熱く激しい。


 当然、蓮見も葉子相手に最初から全力でいく。


「スキル『虚像の発火』!」


意識を集中させる蓮見。


「………………」


 素早く息を整えながら弓を構え放っていく。

 スキルを使い消費した分のMPを回復するため、連続して通常攻撃の連発。

 だが、そのどれもが葉子に躱される。

 彼女の身軽な足さばきは常に余裕を感じさせる。

 少しでも気を抜けば、十五メートル程度の間合いでは一瞬で詰められてしまう。

 そう感じる程に強者の余裕を感じさせてくる。


「見切られているのか……」


 矢を放つときには既に葉子が動き始めている。

 だったら、葉子の行動を先読みすればいいのだが、残念ながら蓮見にそれだけの実力はない。

 ならば今までの自分を超えなければ勝機は薄い。

 それができなければ勝ち目はない、とも言えるかもしれない。


「スキル『加速』!」


 葉子の速度がさらにあがり、両者の距離がジリジリと縮まっていく。

 そして――ついに葉子が剣の間合いまで詰めてきた。


「やべっ――!?」


 剣の連撃が向けられる。


「捉えました。悪いですけど一瞬で終わらせますよ、スキル『パワーアタック』『かまいたち』!」


 慌ててHPポーションを使うが、回復と同時にHPが削られていく蓮見。

 葉子が使ったスキルにより風の刃が身体を切り裂き、赤いエフェクトが蓮見の身体から飛び散っていく。


「まだです!」


 さらに葉子が本命の一撃を入れる。


 息を忘れる程に集中して、やっと一撃を入れた葉子の表情が緩む。

 だが隙はない。

 そのままバックステップで離れて行く葉子。


「……危なかった、欲を出していれば」


 冷静な判断をする。

 攻撃を受け膝から崩れ落ちるもすぐに足腰に力を入れて立ち上がる蓮見。


「あのオーラ……確か綾香さんは神災モードとか言ってましたけど……あらためて見るとやはり恐ろしいですね」


 慎重に状況を見極めていく葉子に対して蓮見は大きく深呼吸をして息を整える。

 やっぱりこの人(葉子)も強い、そう思うと、身体中からアドレナリンが分泌され最高に楽しい気持ちになってしまった。

 

「行きます! スキル『虚像の発火』!」


 蓮見が走り、間合いを詰めながら通常攻撃と一緒に矢を放つ。


「ん!?」


 距離を取るのではなく、自らのアドバンテージをなくし、敵の懐に入ってくる蓮見に葉子が驚く。

 だけど葉子は警戒をしつつ、蓮見の作戦に乗ることにし、そのまま自らも走り剣の間合いまで詰めていく。


「なにが狙いかはわかりませんが私を甘く見ないでください、スキル『一閃』!」


 さらに減る両者のHPゲージ。

 葉子は敢えて蓮見の攻撃を受けるのではなく、身体を捻ることで最小限のダメージに抑え自らの攻撃を最速で叩きこんでくる。

 ダメージを与えた事で消費した一部のMPゲージを回復する蓮見と葉子。



 ――正に紙一重の攻防。



 だけど蓮見の作戦はここから。

 急いで弓を腰にかけ、鏡面の短剣を複製し両手に持つ。


「スキル『迷いの霧』!」


 相手の視界を奪いゼロ距離でのKillヒットとテクニカルヒットを狙う蓮見。


「これで毎秒一ダメージは確実に……えっ!?」


 葉子の視界を潰した蓮見は驚いた。


「なんだと……毒のダメージがない……」


 当然蓮見を狙う者や警戒をする者なら当然火と毒の耐性を付けている。

 もはや自分の無自覚な知名度が自分の首を絞めている事にまだ気づかない蓮見は毒の霧の中で舌打ちをする。


「くそぉー! ええい、こうなったら覚悟!」


 だが、連続で攻撃するも聞こえてくるのは悲鳴ではなく、金属と金属がぶつかり合う音。蓮見の狙いが今までの行動パターンから大体わかる葉子は見えないならと目を閉じ集中していた。そして蓮見の僅かな気配を察知と防御に神経を集中させ、四方八方から飛んでくる攻撃を全て剣で振り払っていた。


 これが飛んでくる矢ならば、矢に注意しその方向に進んでいけば毒の霧が晴れるので葉子としてありがたかったのだが、悪運が強い蓮見は結果的に葉子の裏をかき、それを知らず知らずのうちに阻止していた。


「……攻撃がデタラメ過ぎてどう動いたら正解なのかわかりませんね」


 型が全くない蓮見の攻撃に葉子は反撃をしたくなる気持ちを抑え毒の霧が晴れるまで我慢する。ここで下手に動き、攻撃を躱され隙を作れば、Killヒットの餌食になると自分に言い聞かせる。


「なんで見えるんだよ……この霧の中で……」


 攻撃が全て弾かれ、戸惑う蓮見。


「やっぱり見えていますね……私が何処にいるのか……」


 これでは背中を見せる事は出来ないと判断する葉子。

 そして。


「ならば、スキル『烈風』!」


 葉子を中心に風が巻き上げられていく。

 当然毒の霧も風と一緒に上空へと飛んでいき、辺り一面を覆っていた視界の悪さがなくなった。


「捉えました! これで終わりです! スキル『アクセル』『連撃』!」


「今までより速い!?」


 攻撃に集中し、まさかこのような形で反撃されるとは思っていなかった蓮見は慌てる。


「……一か八か……頼む」


 鏡面の短剣二本を葉子に向かって投げるも、青いエフェクトを放った剣に簡単に弾き飛ばされてしまう。


 そして――。


 葉子の七連撃が蓮見の身体を切り裂いていく。

 先程とは比較にならない痛みが全身を襲う。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 戦場に聞こえる蓮見の悲鳴に先程までやや【深紅の美】ギルドに優勢になりかけていた戦場の流れが【ラグナロク】ギルド優勢に一瞬にして変わる。


 最後の一撃を受けると同時にその場で地面に落ちて行く蓮見。

 止めを刺そうとする葉子。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る