第305話 蓮見VS葉子 後半
だがそんな葉子に向かって飛んでくる魔法攻撃によってその行動は強制終了させられ、そのまま退避までさせられる。
「この攻撃はミズナさん。やはり援護職としての視野の広さは侮れませんね」
だけど。
その光景を見た者達は微笑む者と驚く者、そして唖然とする者に別れた。
「第三回イベの時も思ったけど相変わらずゴキブリ並みの生命力ね……」
「そうだね……」
「てかお姉ちゃん?」
「なに?」
「あれ、なに?」
瑠香の指さす先には、大空に出現した巨大な魔法陣があった。
「あれはほら……もうそろそろいるかなって?」
「もしかして第三回イベのラスボスが完全復活的なアレ?」
「最早魔王の復活かもね」
少し離れた所で瑠香と七瀬が戦闘中に会話をしていた。
その期待に良くも悪くも応えようとする蓮見が立ち上がる。
視界の左上のHPゲージはもう見えるか見えないかぐらいと少ない。
「あぶねぇ……アシストなかったら確率論に賭けることになってた……」
蓮見のいう確率論とはスキル『白鱗の絶対防御』の事でその効果はVIXを10%アップし、致死性のある攻撃を受けた場合10%の確率でHPを一にして耐えるというものだ。
故に七瀬のいうゴキブリという表現もしぶとさという意味では間違っていない。
「ん?」
蓮見の視界上空にある物が目に入った。
またその真下付近の地上ではある女性がせっせかと作業をしていた。
「葉子さん」
「なんでしょう?」
「俺決めました」
「なにをですか?」
「葉子さんはとても強いです。俺なんかじゃやっぱり逆立ちしても勝てないぐらいに」
「それはありがとうございます。それでなにを決めたのですか?」
「里美に怒られる覚悟です! ここから俺も逝きます! スキル『水振の陣』『罰と救済』『猛毒の捌き』!」
攻撃を受け回復したMP全てを使い覚悟を決めた蓮見。
逝きますと自分で言うだけあって、内心わかっていた。
下手したらここにいる全員がどうなるかを……。
当然それは自分を含め死ぬことになるかもしれないと、だからこの男は。
「俺の全力シリーズ爆炎大喝采!」
自分だけ空に逃げる事にしたのだ。
金色の魔法陣が前方に出現する。
そこに重なるようにして水色の魔法陣が出現する。
それは中心部にかけて神々しく金色に光輝き、魔法陣の淵にかけて水色に光り輝きと少し違和感を覚える魔法陣だった。魔法陣の淵には魔術語で書かれた金色と水色の文字が浮かんでいる。
そこへ少し遅れて紫色の魔法陣が出現し、毒の矢を飛ばし始める。
それは全て上空にある別の魔法陣の方へと飛んでいき、一旦姿を暗ます。
「ミズナさんありがとうございます。後は俺が何とかします」
「はーい! なら後は任せた!」
「第一次水爆特攻隊長紅君逝きまーす!」
走り始めた蓮見の元に飛んでくる毒の矢を足場にして上空へと飛んでいく蓮見。
今回の猛毒の捌きは水の効果ダメージ付き。
ついに蓮見が火と水と毒を一つに合わせる事に成功する。
それが蓮見の新必殺技――爆炎大喝采。
「逃がしません。スキル『障壁」!」
障壁の連続使用と二段ジャンプを活用しすぐに追いかけてくる葉子。
「なら勝負です!」
「来なさい! 【神眼の神災】! ここで決着をつけます」
二人の試合は空中戦へと変わっていく。
それを地上で見上げる者達の足元にはいつものお決まりになりだした手榴弾と聖水の瓶が降り注ぎ始めたのだが、よく見れば足元の茂みや木々の影に隠される形で既に沢山敷かれてあった。
「ん?」
美紀がいつの間にと思い視線をキョロキョロとすると、いつの間にかエリカが戦場から消えていた。
「しまった……いつの間に!?」
戦闘が始まる前、蓮見と七瀬の会話を盗み聞きするだけでなく蓮見の意図を察したエリカは一人コツコツと神災の手助けに入っていた。それも全員が集中し、戦闘に意識が向いた瞬間を狙うかのようにして。
「ふぅ~。とりあえずお姉さんとしての役目は……いてぇ!?」
「ちょっとなにしてるの!?」
「あっ、里美? スキル『遠隔操作』で保険をかけてあげようと思って」
「……それ、想い人に殺される手助けしてるようなものだけど……大丈夫なの?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「「ミズナァァァ!!!」」
「は、はいぃぃぃぃ!?」
急に名前を呼ばれ驚く七瀬。
「「障壁でも導きの盾でもいいから早く使って!!!」」
美紀とエリカの声に思わず頷いて、指刺された方へと向けて障壁を作っていく七瀬。
そこに瑠香も合流し、障壁を何枚も作り階段状に配置し上空へと逃げる四人とそれを追うラグナロクメンバーたち。
前代未聞のプレイヤー同士の空中戦は大いに目立ち、遠くのプレイヤー達の目にもその姿が確認される。
空中を自由に動き、矢を空中待機や自動発射、自動追尾し敵を撃ち落とす戦闘機(【神眼の神災】)。ただし普通の戦闘機ではない。おおよそ三百発と言う一撃必殺の可能性を秘めた猛毒の矢(ミサイル)が搭載されている。
対して、障壁と二段ジャンプにMPを割き、不自由でありながらそれを感じさせないPS(プレイヤースキル)で臨機応変に対処する【ラグナロク】ギルドのNo,2(副ギルド長)。
「当たらない……」
「甘いですよ! それに逃げてばかりでは私には勝てませんよ」
躱す、逃げる、攻撃の順で比率が多い蓮見は最後の賭けに出る。
「空まで焼く火力がありますように、神様、仏様、エリカ様どうかよろしくお願いします!」
「はーい! お姉さんにお任せあれ! スキル『遠隔操作』によるポチッとな!」
エリカが自分の仕掛けた大火力の爆弾を一つ爆発させた。
そこから始まるは、小型爆弾と蓮見のばら撒いた手榴弾と聖水の瓶による爆発の連鎖。
僅か数秒で辺り一面を焼き尽くすと同時に凄まじい衝撃波が地上を襲った。
少なくとも今ので数百本の大木が灰すら残さず燃え尽きどこか彼方の遠くの世界へと飛んでいった。
「今だ! 全弾葉子さん達に飛んでいけ!!!」
蓮見の合図を受けた猛毒の矢百本が葉子と葉子の動きをアシストする足場の障壁に飛んでいき破壊していく。
空中を自由に動きまわっていた葉子は足場を失い地上へと落ちて行く。
息が苦しい。
葉子が上を見上げれば早くも巨大なキノコ雲があり、下を見れば黒くなった木々がまだ燃えている。
それだけではない。
多くの仲間が一瞬にして再び消えた。
そこへ追いうちをかけるようにやってくる二百を超える矢が地上へと降り注ぎ生き残った者達の命をさらに刈り取り始める。
「だけど爆発無効耐性組は矢さえなんとかできれば……」
ゴホッゴホッ!
爆発、火、毒耐性を付けた者達が一斉にむせ始める。
何事かと思い飛んでくる矢を剣で撃ち落としながら地上に目を向ければ猛毒の矢がプレイヤーや地面にぶつかる度に毒の水を発生させていた。
その水は紅蓮のように燃え盛る炎によって一瞬で蒸発し周囲を毒のサウナ状態にし始めていた。
こうなっては息が苦しい、そんなものではない。
地上へと落下した葉子は口を手で覆うが、肺を燃やすような熱さは最早異常。
真面に息ができない。
息をすればするほど苦しくなる。
すぐに酸素の供給が止まり、視界がぐるぐるしたりふわふわもする。
スキルや装飾品でステータスに毒無効を持たない者達は息ができないだけでなくHPゲージまで削られている。
「こんなの……」
そんな中、まだ終わらない猛毒の矢による攻撃。
綾香は近くにいた仲間たちに固まらないように身振りで指示をだし、すぐに走り始める。
「私達は手を出す相手を間違えたとしか言え……」
そう思うが時すでに遅し。
全ては最恐プレイヤーの手の中であると気づく。
すると――。
「まずい……」
今度はエリカの補給を受けた蓮見が、
「メリークリスマス!!! 良い子の皆様に半年以上早起きサンタクロースからのプレゼントだよ~!」
と言いながら、爆弾を投下し始めていた。
第一、第二、第三と続く攻撃に生き残った者達の心が折れていく。
ドン! ドン! ドン!
あちらこちらから聞こえる爆発音は葉子の心をじわじわと完全に折るまで鳴り響く。もう曖昧な可能性すらないのではないか。安易に手を出すなと世間が言っていた。それは正しかった、そう確信してしまう。
ドン! ドン! ドン!
広範囲過ぎて息苦しく視界が悪い蒸気をどこかにやりたくても出来ない。
かと言って上に逃げるにしてもそれをすれば息が乱れた者をKillしようと待っているまだまだ元気いっぱいの蓮見。
このまま地上にいて仮に生き延びてもこの息苦しさは精神的にかなりくる。
なにより爆発音が聞こえる度にまだまだ熱くなっていく戦場。
ドン! ドン! ドン!
これに終わりはあるのか。
いやないだろう。
蓮見の気が済むまでは。
戦場は火の海を物凄い勢いで拡大し熱く蒸し暑くなってくる。
いや、あるいは美紀が蓮見を止めると言うのも一つの可能性としてはあるわけだが、今回は何とか全員(【深紅の美】ギルドメンバーは)無傷で済んだので【神眼の神災】を止める可能性は皆無だろう。
「……ゲホッゲホッ毎度、毎度、……爆発の規模が大きくなってますよ、くれ……ゲホッ……ゲホッ……ない……さん。私の完敗ですね」
こうして前代未聞の範囲を盛大に焼き払い、数多のクレーターを作り、数多の心を根こそぎ折り、仲間と協力し多くの者に遠目でありながら恐怖を与えた者の名は【神眼の神災】こと蓮見。
この瞬間をもってして、多くの者が悟ってしまった。
火、毒、爆発耐性無効化程度ではこの男はまだまだ止まらない。今度は水と息(呼吸法)を何とかしなければならないと。
「一、二、三、…………」
「なに数えてるんだ?」
「あそこにある巨大キノコ雲の数だよ」
「葉子さん頑張ってたけど……あれは同情するな」
「前半戦の流れで行くとあれは後半戦の準備運動だろ? 今までの傾向から間違いなく後半は後半で……」
と遠くの戦場にいた者達は薄々察した。
彼には前科が多すぎる為に、この後なにもないわけがないと。
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