第295話 間一髪


 時間が経過し午後の部(後半戦)が開始した。


 なんだかんだ有意義な時間を過ごした【深紅の美】ギルドは後半戦用のイベント専用MAPに転送されると同時に全員がギルドリーダーで一番一人にしては心配な蓮見の元へと駆けて行く。


 なにせ蓮見は午前の部(前半戦)で【雷撃の閃光】と【ラグナロク】の怒りを見事に買うという偉業をあっさりと成し遂げたのだ。

 それ以外にも今までの行いの結果、イベント関係なくその首を貰おうとする者達も多くおり油断ならない。

 結果蓮見は転送と同時に小規模ギルドや個人で参加しているソロプレイヤーに見つかり攻撃を受けていた。


「おいおい、開始と同時に剣を振り回すなって。危ないだろ!?」


 言っている事は真面。

 だが――。

 なぜだろう。

 蓮見が言うと説得力が微塵もないのは……。


「黙れ! ここで死ねぇ!!!」


 容赦なく振られる剣の一撃を躱す蓮見。


「横ががら空きなんだよ!」


 今度はハンマーが蓮見の進行方向から飛んでくる。


「あぶなっ!?」


 間一髪身体を捻る事で躱す。


「貰った!」


 態勢が不安定になったタイミングで今度は頭上から大剣を振り下ろされる。

 このままでは切られる。

 そう思った蓮見が足腰に力を入れて回避行動を取ろうと試みるが、姿勢が悪いせいか上手く力が入らない。


「こうなったら、目覚めろご先祖様の血!」


 そう言って蓮見は頭上に手を伸ばして一か八か――。


 頭上から自分を真っ二つにしようとする大剣を――。


「俺の全力シリーズ、真剣白刃取り!」


 両手でしっかりとキャッチ。


 だが――。


 力不足の為、大剣は止まることなく蓮見の身体を頭から切り裂こうとする。


「しまっ――!?」


 お調子者への天罰が遂にくだる。

 そう思った者達の頬が緩む。


「スキル『破滅のボルグ』!」


 大剣が蓮見の頭に触れる直前のことだった。

 聞こえてきた声と一緒に大剣を振りかざしていたプレイヤーが横から勢いよく飛んできた槍に心臓を貫かれて光の粒子となって消えたのだ。


「……ん?」


 理解が追いつかない蓮見が視線をキョロキョロと泳がすとさっきまで自分を取り囲んでいたプレイヤー達が全員光の粒子となっていた。


「誰が開幕初っ端から死にかけてるのよ! このばかぁ!!!」


「あっ……」


 ようやく蓮見は状況を理解した。

 さっきのプレイヤー達は全員運よくここに到着した美紀によって倒されたのだと。

 そして蓮見は九死に一生を得たのだと。


「流石ナイスタイミング!」


 拳をつくり親指を向けて満面の笑みでお礼をいう蓮見。


「もう……マジでドキッとしたわよ」


「恋したの?」


「違う。そのドキッじゃない……ってはすみぃくーん冗談言う前に私に言う事があるよね?」


 急にニコニコし始めた美紀。

 その声はいつもよりワントーン高い。

 蓮見は思った。


『しまった……美紀が小悪魔になった!」


 と。そうこのまま小悪魔を野放しにすれば蓮見の恥ずかしいエピソード暴露大会が勝手に始まったり、いじめられたり、愛のあるお仕置きを受けたり、とリアルでもゲームでも逃げ道がなくなる。なにより今は良くても後々最悪食料問題にまで発展しかねない。そう思った蓮見は今は周囲に二人以外誰もいないイベント専用MAPでジャンピング土下座をする。


「すみませんでした! 心躍っていて完全に油断したあげく、これいけるんじゃねぇ? って調子に乗りました!」


 誠心誠意謝る蓮見。

 それを見た美紀は「やれやれ」と首を振る。


「別にそこまでしなくてもいいけどさ……」


「はい……」


「もういいよ。恥ずかしいから早く立って。もうじき皆来てくれると思うから」


「はい……」


 半分呆れた美紀。

 なんでいつも自分の前ではだらしないのだろう。

 そう思ったのだ。

 だけど――。


「まぁいっか。手がかからないはすみぃははすみぃじゃないし。なにより後でこれを理由に甘えればいいんだし」


 と蓮見には聞こえない声でボソッと呟き甘える理由を手に入れたのだと自分に言い聞かせこの状況をポジティブに考えることにした。

 それから二人はエリカ達が合流するまで雑談をして待つことにする。

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