第291話 第二ラウンドは【神眼の神災】もボス枠だと?
エリカのアドバイスを受けた蓮見は屈伸をして背筋を伸ばし大きくストレッチを始めた。
今からやろうとしている事は蓮見にとっては普通のこと。
だけど失敗したら大衆を前に恥ずかしい姿を晒す事になる。
もう何度目だろうか。
美紀に怒られる覚悟を決めるのは……。
数え切れない。
それでも男蓮見はすると決めた。
だってご褒美が欲しいから。
きっとエリカがいざという時は護ってくれる、なんて内心思っているのは皆には秘密。
「俺が普通と思ってしたら大抵怒られる。だからこれが異常だと思ってすれば……多分怒られないはず……」
自分に言い聞かせる蓮見。
ビビるな。
頑張れ。
そう――ご褒美のために。
別にエリカはご褒美が何かとは言ってない。
これは蓮見が勝手に新しい装備かアイテムだったらいいなーと思っているだけ。
それでも体内から溢れ出るドーパミンやアドレナリンが蓮見の若い身体を刺激する。
「行くか」
大きく息を吸い、ゆっくりと息を吐き出す蓮見。
周りの目を気にせず、足を動かす。
徐々に早くなっていく蓮見。
そして急降下して地上にいるプレイヤー達目掛けて襲い掛かってきたゴッドフェニックスに低空姿勢のまま駆けて自ら突っ込んでいく。
「来い! ゴッドフェニックス!!!」
蓮見の眼差しは真剣。
失敗すれば大恥をかく事になる。
自身の名誉の為にも失敗は許させない。
そう言い聞かせる。
蓮見とゴッドフェニックスの距離はどんどん縮まっていく。
その距離、残り三メートル。
縮まって、残り二メートル。
さらに縮まって、残り一メートル。
右足に力を入れて、思いっきり踏み込む蓮見。
そのまま前方上空に向かって大きくジャンプ。
両腕をあげて全神経を集中させる。
今回はガーゴイルと違ってかなり敵が大きい分速度も速い。
万に一つでもタイミングを間違えれば力で振り切られるのは目に見えている。
そして――。
狙い通り神災モードとなった蓮見の最速をもってしてゴッドフェニックスの左翼の付け根を掴むことに成功する。
「おっしゃああああ!!!!!」
そのまま両腕に力を入れて振り飛ばされないようにする。
幸いゴッドフェニックスの効果である火属性ダメージは完全無効化されており、蓮見は熱いなーぐらいにしか感じていない。それもゴッドフェニックスが速度を上げて動き回る度に風が当たるので結果的には体感にしてちょっと熱いぐらいの感覚である。
そのままゴッドフェニックスの背中によじ登り立ち上がる蓮見。
「良し! 大成功!!!」
口角が上がりニヤニヤが止まらない蓮見がガッツポーズを決める。
本来ならこのまま弓を構え矢を放ちKillヒットを狙うのだが今回は違う。
弓を構え狙うは――。
「悪いけど今回の俺様はこっちの味方だ!!!」
そう言って放たれた矢は綾香と葉子の遠距離攻撃スキルをKillヒットで消滅させた。
驚く者達を他所にこれは行ける! と確信を得る蓮見。
「やっぱり俺様は天才だぁーーーー!!!」
その声が上空彼方で響くと同時に地上では別の声が響く事になる。
「「「「「ちょっと待てーーーー!!!!」」」」」
「「「「「やめろーーーーーーーー!!!!」」」」」
「なんで!? それは私のスキルだよ!?」
「どうなってるんですか!? 紅さん? これはどうゆうことですか!?」
午前の部ではプレイヤー同士によるポイント強奪は行われない。
即ちプレイヤーの攻撃では死なないように設定されている。
ただし仲間の攻撃に関しては死なないだけでダメージを与える事は出来る。
その裏をついた蓮見。
それはエリカの一言で思いついたと言っても過言ではない。
自分はゴッドフェニックスの攻撃以外では死なない。だけどプレイヤーのスキルは赤と黄色の点も存在することから相殺もしくは撃ち落とせるのではないかと。
確証はなかったが、今回ぶっつけ本番でしてみると、案の定蓮見の思い通りになってくれた。結果論だが、蓮見はゴッドフェニックスの背中から綾香達の攻撃を相殺する騎手にこの瞬間なってしまった。
「「「「「なんで、レイドボスとお前が手を組むんだよ……それはなしだろ!!!」」」」」
『演舞の煙山』最強とプレイヤー最恐が手を組む。
誰も予期していなかった展開に多くのプレイヤーが一斉に叫んだ。
当然常識がある人間なら誰もこんな事はしないだろう。
だけど蓮見だからこそ、見つけてしまった戦略もこの世には幾つかある。
その一つがこれだ。と割り切れといってもそう簡単に目の前でされて、はいそうですか、と認められる者は少ない。
「ちょっと紅! それはありえない!!!」
当然綾香もこれでは攻撃が思うように出来ないので大慌てである。
なぜならスキル攻撃を全て無効化プラスアルファで空からKillヒットの可能性がある矢が常時降り注いでくるとなれば死なないだけでダメージは受けることから攻撃の手数は一気に落ちる。
なによりルフランクラスで警戒をしないといけない敵(紅)が無敵かつゴッドフェニックスも不死(復活が速過ぎる)となればこれは綾香でも流石に荷が重い。
こんな所で全気力を使えば午後に間違いなく支障が出る事は目に見えているからだ。
「待ってください! 私達の敵は同じはずです。それなら私達と手を組みましょう! この際紅さんがメインで攻撃していいですから、お願いします!」
こちらも大慌ての葉子。
何をするにしても神災モードとなった蓮見は攻撃速度は馬鹿みたいに速く全ての攻撃、特に大ダメージを与える攻撃だけをピンポイントで撃ち落としてくるからだ。
「ふふっ、アハハ! 綾香さん! 葉子さん!」
「なに?」
「なんでしょう?」
「丁重にお断りします。俺はご褒美をもらう為に頑張らないといけないんです!」
「「……ご褒美?」」
「はい! だからここからは全力で行きます!」
イベント開始から数々の方法で一人空の世界へと飛び立つことに成功した蓮見はここから容赦なく攻撃を続けていく。
「スキル『連続射撃3』『虚像の発火』!」
それから聞こえる鼻歌は多くの者に畏怖を与える。
綾香と葉子がすぐに指示をするが、蓮見の予測不能な行動と攻撃の連発に多くの者が後手後手になり統率が上手く取れなくなり始める。
それでも綾香と葉子が蓮見の攻撃を臨機応変に対応しゴッドフェニックスにダメージを与えるが蓮見のせいで手数は全員合わせて最初の半分以下となり苦戦を強いられ始める。
「くそっ……やっぱり敵に回すとルフランよりめんどくさい。けど面白いじゃん、不死だからって好き勝手させないよ!」
「前代未聞ですね。ですが、落ち着いて対処すれば何とかなります……きゃぁああああ!?」
そう葉子の言うとおり全てが前代未聞。
故に誰一人このような事が今回起こるとは考えてすらいなかった。こんな事をすれば午後どうなるかはわざわざ語るまでもなく、多くの者の邪魔をしたと言うことから一人狙われる事になるからだ。それでもこの男はなんの躊躇いもなく、ただご褒美の為だけに動いた。例え今回の一件で今さら敵が百人程度増えたぐらいではこの男(蓮見)はもう止まらない。
ただしこの現象を起こしている蓮見でさえもイベント開始前にこのような形で綾香達と敵対するとは思ってもいなかったのも事実。
「葉子!?」
「だ、大丈夫です!」
「気を付けて! あぁーなった紅はかなり厄介だから――」
「綾香さん!」
「しまっ……!?」
ゴッドフェニックスの炎の攻撃の影に自分の炎の攻撃を隠す芸当を身に着けた蓮見の矢は視認しずらく少しでも油断すれば葉子のように身体を吹き飛ばされたりまた綾香のように突起した岩石を破壊され足場から姿勢を崩されたりもする。
「もう! 怒った! ここからは少々本気で行くからね!」
「カモーン! 俺も本気で行きますよ!」
綾香の挑発を受けた蓮見。
どちらも満面の笑みでぶつかる。
その光景は多くの者を魅了したが、後にその数倍の者達の頭を悩ませることとなった。当然プレイヤー以外の人間(運営陣)もである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます