第285話 私(葉子)のヒーロー
【深紅の美】ギルドが好調にイベント進んでいく中、綾香と葉子は肺を蝕む蒸気が辺り一面を覆っているエリアまで来ていた。
ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ
息が苦しい。
その中でも時間経過で復活したヤドカリ達が襲ってくる。
竜巻で蒸気を上へとやろうとしたが、綾香個人のスキルだけでは無理だった。
かと言って連携でスキルを使おうにも、気付いた時にはヤドカリの群れに囲まれ、隊が分断されており不可能となっていた。
綾香と葉子の指示の元群れの中心となっている中ボスの役目を果たす巨大ヤドカリを狙うも視界不良と息苦しさと地面に潜るのトリプルパンチに苦しめられている。
下手に広範囲攻撃を使うと視界不良の為仲間まで巻き込んでしまう。
かと言って強力なスキルで倒そうにも向こうも頭がいいのか、巨大ヤドカリだけは綾香と葉子の近くにはさっきから一度も来ないのだ。
「ひぇー、これどうなってるのよ……」
「これは厄介ですね」
「だよね~、てかあのデカブツ全然こっちこないでイライラするね」
綾香の双剣がヤドカリの身体を次々と引き裂いていく。
その後に残るは光の粒子だけ。
テクニカル把握系統のスキルがなくても熟練者ともなれば、動きがノロマな通常モンスター程度では意図も容易く狙ってテクニカルヒットを起こす事も可能なのである。
「その割にはこの視界不良の中、テクニカルヒット連発してません?」
「あぁーこれ? 紅の真似してたらいつの間にか出来るようになったんだよ! それにさ、紅のPV見てたら何となくこのモンスターはここがKillとテクニカルヒットポイントなのかなってわかってきてね」
その言葉に苦笑いの葉子。
だけど葉子の剣はステータス補助のスキルが掛かっている為、ヤドカリの甲羅をいとも簡単に切り裂いていく。
「一体何回見たら……そんなことできるようになるんですか……あははは」
「ん? さぁ? なんだかんだ暇さえあれば見てたから結構見てたと思うよ」
「綾香さん程の実力者ならそもそも見る必要がないと思いますが……凄い執念ですね」
「違うよ。そもそもその考えが間違ってる。だから皆私やルフランが今どんな思いでいるか気付かないんだよ」
「と、言いますと?」
「知りたい?」
「はい」
二人は口とは別に手を動かしながら、巨大ヤドカリの逃げ道をなくしていき奥の壁へと追いやっていく。
「紅はね、里美とミズナとルナのお気に入りなんだよ。だから――」
「だから?」
「だからね、……いやこの続きはルフランに聞きな。きっとその方が納得できると思うから」
遂に視界でその巨体を捉えた綾香の目つきが一瞬鋭い物へと変わる。
「ったく、手間かけさせないでよ。私の獲物は君じゃないからさ! スキル『アクセル』『幻影の舞』!!!」
突然空を切るような速さで一直線に駆け抜けていった綾香に葉子の眼が奪われた。
「速い!?」
次に葉子の眼が綾香を見た時には巨大ヤドカリは切り刻まれて光の粒子へとなって消えていた。
「たったの一撃で中ボスを倒されるとは……」
驚く葉子。
だけど驚いたのは葉子だけじゃなかった。
綾香と行動を共にしていた【雷撃の閃光】と葉子と行動を共にしていた【ラグナロク】のギルドメンバー達もまた驚いていた。
これが暫定NO.3の実力。
そう思わずにはいられない者達。
それでもなぜだろう。
今ならわかってしまう。
さっき綾香が言おうとして止めた事の意味が。
どんなに凄い光景を目の前で見ても【神眼の神災】の前では通用するのかと言う疑問。
確かにPS(プレイヤースキル)では圧倒的に綾香の方が上。
それがわかっていても考えてしまう。
「ありがとう。でも本気出せば葉子もこれくらい出来るでしょ?」
「は、はい。頑張ればできますが……それでもあの一瞬の判断力は素晴らしかったです」
「そんなことないと思うけど、まぁいいや。なら皆で先に進もうか」
「はい」
数々の奇跡を今も起こし多くのプレイヤーを魅了し引き付ける【神眼の神災】には通用しないのではないかと。
なぜなら葉子が憧れた【神眼の神災】はいつも楽しそうに笑いながらどんな逆境も乗り越えてしまうヒーローのような存在だから。
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