第286話 『演舞の煙山』の頂上へと続く道と試練



 それぞれが順調に各々が目指す目的地に進んでいく。

 その中でも蓮見は持ち前の機転と発想により、単独行動でありながら数々の難所を容易にクリアしていた。


「なんだよ……今度は向こうに渡るのか……」


 蓮見の前方にはグツグツと泡を吹き出すマグマの崖があり、その反対側に『演舞の煙山』の頂上へと続く道がある。

 だが、反対側には簡単には行けそうにない。

 なぜなら等間隔に設置された幅十センチ程度の橋があるだけ。

 本来ならこれを慎重に渡れば問題はないはずだった。

 しかし――。


「なんでこんな細い幅の橋を目視で三十メートルも歩いて行かないといけないんだよ……。しかも風強いし」


 と、条件は最悪。

 まるで某作品の建物の屋上から屋上を渡る鉄筋渡りをイメージしてしまうような光景にため息を一つ吐いた。

 ただし橋に手をついても高圧電流が襲ってくるとかはない分、幾分マシ。


 落ちればマグマのダメージで死ぬ。

 だけど蓮見は【火】に対する完全無効態勢を持っており、ただ熱さを感じるだけの人間に今はなっていることから、崖から落ちて底が見えないぐらいに深いところにあるであろう地面に激突するまでは死ぬことすら許されない人間でもある。


 なにか良いアイデアはないか考えてみるが、近くにはなにもなく、あるのは細い足場(橋)だけ。後は崖とマグマと強風と使えそうなものはない。

 このままでは後ろから聞こえてくる沢山の足跡の集団に追いつかれてしまう。

 せっかくリードした差がゼロになれば元も子もない。

 そう言った精神的な焦りが脳の思考を鈍らせる。


「スキルを使って空を飛んでいきたいけど、こんな所でアホみたいに使って午後使えませんとかになったら里美辺りにめっちゃ怒られそうだし……」


 最後の制御装置(里美の圧)が蓮見の力を温存させる。


 その時だった。


 ある者が目に入った。


「あれだ!!!」


 蓮見の見開かれた目はある者を視界に捉え凝視する。

 それは何処かで見覚えがあるようなないような……。

 確か三話か四話辺りで嫌な記憶で……。

 ひとまず視線はそのまま固定して近くにあった小石を拾い手にする。


「九回裏、2アウト満塁。打席には飛行型モンスター鷹。マウンドにはどうにかして向こうに行きたい背番号1番紅君」


 いきなり実況を始めた蓮見は身体の向きを調整し、右肩を軽く回し最後の調整に入る。

 蓮見の敵意にモンスターが気付き、威嚇してくる。


 重なり合う視線はお互いの姿だけをとらえている。


「ここで紅選手の挑発。おっと!? 鷹が挑発に乗って急降下と同時に紅選手も動く」


 自分で自分の実況解説をしながら、蓮見が見よう見まねでピッチャーの如く手に持った石を全力で投げる。


「俺の全力シリーズ、全力ストレート!!!」


 風を切る音と共に一直線に飛んでいく石。

 だけど。

 鷹は飛んできた石を空中で身体を捻る事で簡単に躱す。


 ――!?


 だけど。

 蓮見がここで機転を利かせる。


「嘘だろ!? ……こうなったら一か八かだ!」


 急降下してくる鷹の突進を今度はギリギリまで引き付けて躱す蓮見。

 そして藁にも縋る思いで手を伸ばす。


「いてぇ……だけどぜってぇ離さなぇからな!」


 鷹の鋭い爪を見事キャッチした蓮見は狙い通り鷹と一緒に空へと浮上していく。

 ここである重大な事に気付く。


「ん?」


 鷹――ガーゴイルと呼称されている。

 ガーゴイルはそのまま蓮見と共に天高く羽ばたいて蓮見を落とそうと暴れる。

 だけど蓮見も徐々に減るHPと手の痛みに耐えしがみつく。

 そのまま蓮見もガーゴイルを制御しようと空中で身体を動かして対抗する。


「あばれぇぇれれるなぁぁぁぁ!!! 素直に向こうに行ってくれぇぇぇぇ!!! 俺達二百八十話ぶりぐらいの感動の再会だし、頼むからあっちに行ってくれって」


 すると蓮見の思いが通じたのかガーゴイルが反対側へと暴れながらも飛んでくれた。


 内心ラッキーと思い、タイミングを合わせて両手を離す蓮見。


 後は何処かへと逃げるガーゴイルに心の中で感謝し上空二十メートルからの着地を待つのみ。


「毎回イベントの度に落ちてるせいか、これくらいじゃどうじなくなったな、俺。これも成長の証だな」


 最早訳が分からない事を言い始めた蓮見は地蔵の如く足から……。



 ――ドガーン!!!!!



「ぅ……うぅ……うーん……」


 岩の感触。


 足先から頭までを襲う激痛と言う名の衝撃。


「ぃ……てぇ……」


 視界の左上にあるHPゲージを確認すると半分まで減っている。

 だけどこれで何とか目的を達成する事が出来た蓮見はレイドボスが待つ『演舞の煙山』の頂上への試練を全て乗り越えた。


 後はレイドボスのみ。


 こうして蓮見は足の痺れに耐え、先へと進んでいく。





 だけど遠目でガーゴイルにしがみついてわちゃわちゃとしている姿を前方上空で見ていた者達は「あはは……」と苦笑いをしていた。


「なるほど……ガーゴイルを使っても空は飛べるのか……」


「いや……あれは【神眼の神災】だけに許された妙技だろ……」


 そんな声が聞こえてくる中、綾香は目をキラキラさせて、


「面白そう。この先にいるガーゴイルで出来るんなら私もしてみようかな」


 と、【神眼の神災】の影響を諸に受け、人ならざる道へと進もうとしていた。


「あれは無理だと思いますよ……別に止めはしませんが死なないでくださいね?」


「私も誰だと思ってるの?」


「【雷撃の閃光】臨時副ギルド長と認識しておりますが?」


「そう。私は【雷撃の閃光】臨時副ギルド長としてここで宣言する。あれくらいは全員朝飯前で出来るようになれ! 無理なら練習あるのみ! と」


 そう言い切る綾香に葉子が苦笑い。

 そして。


「「「「「絶対にあれは無理です!!!!!」」」」」


 と、否定の声が即座に響いた。

【雷撃の閃光】全員の言葉に【ラグナロク】陣営では「俺達は葉子さんで良かった……」と安どの声が聞こえてきた。



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