第283話 無意識に妨害という概念を覚えた者
一方その頃蓮見とはいうと。
「アハハ!!! これは面白い! 乗り慣れればある意味快適♪ 快適♪」
一人盛り上がっていた。
その結果、道中の下位モンスターは抵抗のなすすべなく倒され、『演舞の煙山』は燃えていた。降り注ぐ火の矢『虚像の発火』は動きが遅く防御に極振りされたゴーレムを頭上から貫き一撃死(Killヒット)をしていく。レイドボス攻略阻止と言う意味で時間稼ぎと足切り要因としての役目を一切果たす事が出来ないゴーレムが全滅した頃には鎮魂歌(蓮見の鼻歌)がフィールドに流れていた。
「煙の山に燃え上がるは俺様の炎、誰にも消せはしない炎は今舞い落ちた、未練に消えゆくは命の灯、さぁ今一度燃え上がれ、俺の魂のルフラン~♪」
矢をミサイルのようにして半分以上を使った。
だがそれでも半分はある事から蓮見の足場はしっかりとしており、まだまだ行けるといった感じだ。
そんな蓮見を遅れてやって来た綾香と葉子が遠目に確認する。
「やばっ、超燃えてんじゃん!?」
「あはは……。まだあの人は止まりませんか……ルフラン様私達の対策案は甘かったようです」
「仕方ないか……ねぇ葉子?」
「はい、なんでしょう?」
「私達で一時的に手を組まない?」
「えっ!?」
綾香の突然の要求に葉子は驚いた。
まさかトッププレイヤーの一角を担う綾香から自分達と手を組もうと提案をされるとは思いにもよらなかったからだ。
「わかってると思うけど、このままじゃ紅の独占場。下手したら私達が到着する頃にはレイドボスを何度か瞬殺しているかもしれない。そうなったら本末転倒だしさ、今だけで良いから手を組まない?」
「……確かにそれはありますが……」
悩む葉子。
だがこうしている間にも。
「どけぇ!!! 俺様こそ最強だぁーー!!」
と、ハイテンションな声が耳に聞こえてくる。
「最初から飛ばしていきたいんだよ。今回は負けられない。でもレイドボスを相手にしたら倒せはしなくても各々が好き勝手するより、全員で協力した方が効率的だとは思わない? どうせ、レイドボスは倒しても復活するんだし、それなら私達で協力して一体でも多く倒した方がお得だと思うのよ」
「確かにそれはありますが、ボスにたどり着けば【神眼の神災】一人では与えられるダメージ量には限界がありますし、私達は私達で落ち着いて対処すればすぐに追い抜けると思います」
「なら聞くけど、紅がこれだけで終わると思う?」
その言葉に葉子の表情に迷いが生まれる。
『気を付けろ。俺が認めた男は強い!』
イベント前ルフランから言われた言葉が脳裏に蘇った。
それから大きく深呼吸をして、息を整える。
目つきが変わり、口角が僅かに上がる。
いつもは冷静な判断力の元ルフランを支え、感情を表にそこまで出す事がない葉子の闘志が燃え上がり始めた。
「面白い提案ですね」
「なら意気投合ってことでいいかな?」
「構いませんませんが一つこちらから条件を付けてもいいですか?」
「なに?」
「私の足手まといになるようでしたら即解散で宜しいでしょうか?」
「ふふっ。面白いね、いいよ。ただし忘れないで。私も紅相手だとこの燃え上がるテンションを抑えれないから」
こうして早くも暴走を始めた【神眼の神災】対策としてギルド最強と次席ギルドと言われている【雷撃の閃光】と【ラグナロク】の最強コンビが手を組むことになった。
それを知らない蓮見は目をキラキラさせてまだ先にいるであろうレイドボスの場所まで一直線に空を飛んでいく。
矢の上に乗った蓮見が弓を構え放つ矢は最初こそ命中率が悪かったが今ではそこそこに狙った所に当たるようになっていた。
それと一緒に『歌の魔力変換』によって回復していくMP。
仮に巨体のモンスターが近づいても『領域加速(ゾーンアクセル)』が発動し回避率が五十パーセント上がる。
「全速前進じゃいいいい!!!!」
飛んでくる火の球を躱し、熱い地域に住む巨大ヤドカリの群れを焼き払っていく。
「スキル『連続射撃3』『虚像の発火』!」
放たれた五本の矢は一点の狂いもなく、群れの中心となっている中ボスの役目を果たすヤドカリの心臓と巨大な二本のハサミと頭部を貫き破壊していく。
「よし! 全部飛んでいけ!!!」
それから勢いよくジャンプした蓮見は残りの毒の矢を全て使い、生き残ったヤドカリの群れへと飛ばし道を開けていく。
気転をきかせてここまできた蓮見のポイントはどんどん増えている。
仲間が倒され怒り狂うヤドカリの生き残り達。
それが死へと繋がるとは知らずに突撃していく。
「……えぇい! めんどくせースキル『水振の陣』『罰と救済』『虚像の発火』名付けて『水爆』!!!」
集団となり一つの塊になるヤドカリたち。
親玉が倒された事で指示役を失ったヤドカリたちは連携攻撃ではなく、物量作戦で蓮見を倒す事にした。
だけど蓮見も負けていない。
『罰と救済』によって出現した金色の魔法陣が前方に出現しそこに重なるようにして水色の魔法陣も出現する。
それは中心部にかけて神々しく金色に光輝き、魔法陣の淵にかけて水色に光り輝きと少し違和感を覚える魔法陣だった。魔法陣の淵には魔術語で書かれた金色と水色の文字が浮かんでいる。
そして飛んでいく一本の矢。
――次の瞬間。
前方で大爆発が起きた。
――ドガーン!!!
火と水が混ざり合い同時に爆発したことにより、熱風が出現しその熱風が息をするだけで肺を破壊するのではないかと思われる熱い蒸気生み出し辺り一面を覆いつくす。流石のヤドカリたちも単純な寄せ集めの物量作戦では【神眼の神災】を止めるには数が足りなかったらしい。
それからたちこめる熱い水蒸気が辺り一面を覆いつくし視界が悪くなっていく。
ただでさえ熱い『演舞の煙山』に突如出現した水蒸気はとても暑く呼吸をするたびに蒸気が肺に入り苦しい毒となる。ましてやここは風の出入りがほとんどないエリアの為しばらくはこの状況が続く事になる。
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」
むせながらも歩みを阻む者達がいなくなった事を確認して蓮見は頂上へと進んでいく。
この水蒸気が後に来るプレイヤー達を足止めする事までは考えていない。
ただ結果、そうなるだけの話しである。
こうして見事『演舞の煙山』の頂上付近に早くも辿り着いた蓮見は他のプレイヤーの妨害をしっかりとしつつも好き放題に暴れ始めていた。
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