第282話 まだ進化する【神眼の神災】
「アハハ! 俺様天才! 名付けて俺様戦闘機!!! うひょー気持ちいい!!!」
高らかに叫び、大満足の笑みを浮かべる蓮見。
その声は多くのプレイヤー達の耳に聞こえてくるほどに大きい。
何よりその声だけでなく、存在も大いに目立っていた。
蓮見がいるのは北の最奥とイベント開始時に転送先となっている地点のちょうど中間地点辺り。
そこにはこの先を護るモンスターが沢山いて、『演舞の煙山』に向かうプレイヤー達が沢山いた。その中には【ラグナロク】【雷撃の閃光】ギルドメンバーがいたり、それを束ねる葉子と綾香もいる。
「うそーーーー!?」
戦闘にまだ余裕がある綾香は驚きの声をあげた。
その甲高い声は戦場へと響き渡り、蓮見の耳にも聞こえてきた。
「あっ! 綾香さんお久しぶりです!」
綾香に手を振り元気に挨拶をする蓮見。
それを見た葉子は言葉を失った。
「……なぜ、あんな所に」
「よ、葉子様?」
「……なんでもないです。貴方達は貴方達の役目を果たしてください」
「は、はい」
葉子の動揺は一瞬にして【ラグナロク】のメンバー達にも伝わる。
いや、違う。
ここにいる全員。
ギルド関係なくして【ラグナロク】幹部の動揺は戦場へと波紋のように伝わっていく。
「――ってことで、俺先急ぐんでまた会いましょう!!!」
蓮見は見上げる者達に向かって元気よく言い残して、空を飛んでいく。
プレイヤー初空を飛ぶ事に成功した蓮見は正に天邪鬼。
「にしてもこのスキルにこんな使い方があったとはな」
スキル『猛毒の捌き』。
その効果は魔法陣を作り、三十本の矢の雨を降らせる。追尾性能【中】。
その特性を利用して、標的を適当に決めて発動。
後は矢の上に飛び乗り空を飛んでいくと言う単純な方法でとうとう飛行スキルがアップデートされる前にその快挙を達成した蓮見。
細い矢も束にすれば人が立って乗るぐらいの幅にはなる。
後は今までゲームの中で身に着けたバランス感覚を活かして乗っておくだけ。
空を飛んで襲い掛かってくる敵には毒の矢を操り、一本飛ばす。
Killヒットされたモンスターはそのまま光の粒子になって消える。
ただし毒の矢を放てば放つ程、残数は減り足元が不安定になるので、可能な限り逃げるか自分で矢を放って迎撃していく。
その光景を見た者達は戦慄した。
「火の耐性を付けてこれで一安心した俺達。そんな俺達を嘲笑うようにして今度は空と来た」
「今度は今まで少なかった空戦も覚えないといけないのか……」
「戦闘機から放たれる水爆と火属性の超爆発。最早リアル戦闘機だな」
「あぁ。アイツ今空から地上のモンスター狙い撃ちしながら進んでるけどさ、Kill出来る時点で陸からの反撃にも対抗できるよな? この時点で厄介過ぎる。これから俺達はどうすればいいんだ?」
「空から大量の手榴弾落とされないだけ今回はマシだよ」
「だな」
「あぁ……」
「空襲に制限掛かってて良かったな……マジで」
多くのプレイヤーの嫌な予感を煽りながらも、蓮見は少しずつ的当てゲームの要領で地上にいるモンスターを適当に狩ってポイントを稼ぎながらレイドボスが待つエリアへと突き進んでいく。
メッセージでは各ギルドに早くも【神眼の神災】が今度は空を飛び出したと光の速さで伝わっていきすぐに美紀達の耳にも届く。
■■■
「ところで里美?」
「な、なによ?」
「【人型人造破壊殲滅兵器】が早速暴走始めたらしいわよ?」
「……う、うん」
聞こえてくる声と謎の視線を向けられた四人は早くも起きてしまったトラブルに冷や汗ものである。
確かに成長は願った。
だけどここでは大きな進化は願っていない。
本当にちょっとだけ。
手綱を離して一人にしたら何かするかもとは思っていただけ。
だって前科が多いから。
それでも全員が前代未聞の領域にこうも簡単に行くとは思ってもいなかった。
「戦闘機とか聞こえてきますけど、里美さん?」
「な、なによ?」
「紅さん空飛ぶスキルとか持ってたんですか?」
「持ってなかったはずだけど?」
「ならどうやって空を飛んでいるんですか?」
瑠香の疑問に誰一人答えることができない。
それもそのはず。
誰一人飛行スキルの情報を把握していないから。
こうして四人は解決できない疑問を頭の片隅に残しながら、東の最奥にある『オッドアイズ・竜神の都』へと向かって走っていく。
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