第275話 運命の神様が選んだ勝者と敗者とは


 気合い十分の美紀。

 心の中は不安の嵐だが、それを周りに悟られないように顔には極力ださない。


 そして運命の数が決まった――五。


「……チッ」


 なんとかエリカと七瀬には追いついたが、惜しくも後一歩届かない。

 これで、美紀、エリカ、七瀬の三人の合計の出目が十四となった。


「よし……これで蓮見さん次第では私の一位が決まる」


 ようやく長くも短い一夜(一ターン)に終わりが見える。

 瑠香は早くも勝利の二文字を見て、気持ちが高ぶっているが、残りの三人は内心ハラハラドキドキである。


 これで蓮見が大きい数を出した場合、最下位である三人は多額の罰ゲームによる負債を抱える事になる。そうなればゴールまで残り十マス程度とは言え、ちょっとしたイベントマスで最下位になってしまうことだってある。


 そう考えると、ここが――。


 やはり――。


 正念場だと察する。


 固唾を飲み、全員が見守る中瞑想を終えた蓮見の目がゆっくりと開かれる。


「良し! 俺の番だな」


 両手で頬っぺたを叩き気合いを限界ギリギリまで注入する蓮見。

 勝負師(ギャンブラー)としての風格は一人前。

 そう感じさせるほどの威圧感に四人の美女は口を閉じて出てきそうになる言葉を飲み込む。


 こういう時に何か余計な事を言うと、それが火種(フラグ)になる。


 と言う事を身を持って経験している四人だからこそ、ここは静かに見守る事にしたのだ。


「頼むぜ、俺のゴッドハンド! 俺の全力シリーズ、レッツ・ルーレットォォォォ!!!!」


 ――カラカラ。


 高速で回転を始めるルーレット。

 この出目で全てが決まる。


「今の俺なら行ける。そう……今の俺なら……必ずあの数字を出せるはず」


「ちなみに……何を狙っているの?」


「美紀……それは愚問だ。当然狙うは……」


 ゴクリッ


「……狙うは?」


「六」


 部屋全体に広がった緊張感。


 ルーレットの針は”まだまだ”と焦らすように中々数字を決めてくれない。

 その時間がいつもならちょっと長いなーと感じる程度。

 だが今日に限っては異常に長く感じる四人と逆に早く感じる一人。


『こうゆう時の蓮見って悪運だけは強いからな……』


 心の中で思う美紀。


『さて……どうなることやら……』


 瑠香は自分の一位がどうなるか心配になる。

 仮にここで蓮見が六を出しても負ける事はないが、どうせならここまで頑張った以上誰かに罰ゲームを命令したい願望が可愛い容姿の中にはあったりするため、出来れば申し訳なく思うが、ここでは蓮見の負けを願う瑠香。


「ルーレットが……止まり始めた」


 蓮見の言葉に五人の視線が針の先へと集中される。


 ――!!!!!!??????


 ルーレットが止まったと同時に叫び声と歓声が響き渡った。

 そう決まったのだ。

 このゲーム大会第一回戦においての勝者と敗者が。

 ただ一人のギャンブラーによって開かれた一発逆転の夜は――。


 手に汗握る、一夜(一ターン)は――。


 ようやく終わりを迎えた。

 その後、大きな進展はなく。

 ゲームは大いに盛り上がったまま終わる事となった。


 そして、すぐに言い渡される罰ゲーム。


 その内容は――。



「では最下位の蓮見さんに命令です。今からゲームにログインして『俺様、最強! 誰の挑戦でも受けてやる!』と提示板に書き込んでログアウトしてきてください♪」


 最後の最後の大一番で三を出すと言う不甲斐ない結果を出した蓮見は見事一位に輝いた瑠香の命令に歯を噛みしめながら、


「くそぉ~~~~、書きこんで来てやるよ!!!! すぐリベンジするから首洗って待ってろよ、るかぁーーーー!!!!」


 と叫びながら、ゲームにログインしていった。

 そして、ゲームにログアウトした蓮見の書き込みを確認する為に美紀達はスマートフォンで蓮見の書き込みを確認する。


「ねぇ、瑠香?」


「なに?」


「なんであんな命令にしたの? もっと面白い事の方が良かったんじゃないの?」


「それ? わかってないなぁ~お姉ちゃんは。蓮見さんが変な事するたびにゲームはそのたび大盛り上がりになるし、なによりもうすぐ第四回イベントだよ。やるならこのタイミングでなんか凄い事してくれていた方が絶対後からワクワクして楽しそうじゃん♪」


 その柔らかい笑みと声に美紀と七瀬が戦慄する。


「ま、まさか!?」


 何かに気付いた美紀がエリカに視線を向けると、その悪い予感が当たった。


「流石瑠香~、お姉さん嬉しいわ~」


 そこには瑠香の頭に手を伸ばし、優しく撫でるエリカの姿があった。


「ま、まさか……アンタ瑠香を買収したの!?」


「買収とは酷いわね」


「ならなんで瑠香がエリカサイドに……」


「そんなの簡単よ。第四回イベントで暴れたいと考えた時にどうするが一番手っ取り早いと思う? って私が瑠香に聞いて助言をしたからよ」


 神災を制御する側の人間を神災を暴走させる側の人間へと変えたエリカの表情は満面の笑みしかなかった。

 好きな人の大活躍が見たいエリカは考えた。

 そして蓮見の家に来てすぐに七瀬の目を盗み、瑠香と密かに今後の話しをしていたのだ。

 それから瑠香の願望を叶えるのとエリカの願望を叶える方法は同じところにあるのではないかと言う結論を得た二人はゲームが始まる最初から手を組んでいた。どちらが一位をとっても各々の願望を叶えれるようにと。


 顔を見合わせて言葉を失う、美紀と七瀬。


「あはは……」


「あはは……」


「「これ……絶対の奴だ……」」


 そんな嫌な予感にかられながら提示板を確認すると、蓮見が盛大にやらかしていた。

 今まで提示板すらまともに見た事すらない者が適当に書き込もうとするとまず板と言う概念がなく、どこでもいいのかな? となってしまう事だってどうやらあるらしい。




『神災対策とトッププレイヤー対策について』


 565:紅


 『俺様、最強! 誰の挑戦でも受けてやる!』




 そして命令を遂行して戻って来た蓮見がログアウトする頃には早くも提示板が大炎上。

 それをいち早く察知した美紀と七瀬はソッとスマートフォンの画面を切り咳ばらいをして座り直し、エリカと瑠香は第二回ゲーム大会の準備を始める。


 それから始まる蓮見のリベンジ戦と言う名の第二回ゲーム大会と提示板騒動はこの後大いに盛り上がった。


 提示板では――。


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