第274話 近づく一夜の終わり


 さて気になる結果だが、


 まずはエリカ。


 ルーレットが回り、針が示した数字は……五だった。

 ここで強運を見せつけるエリカに笑みが戻る。


「うふふっ、この勝負まだ負けないわ!」


 合計の出目が十四となったエリカは敗北の重圧から一足先に逃れた。

 それを見た七瀬と美紀の表情が苦しい物へと変わる。

 二人はエリカの出目次第では安全圏での勝負ができた。

 しかしそれが今なくなった。


「ここで……五とはね……」


「流石はエリカさん……」


「こうなったら瑠香次第ね……」


「……そうね、もし瑠香まで大きい数字を出したら私と美紀の一騎打ちなんてことになるかもしれないわね」


「……だ、大丈夫よ。ほ、ほら私達仲間でしょ? ね、瑠香?」


 焦る美紀。

 そんな美紀と七瀬を見て、瑠香が答える。


「確かにいつもは仲間ですが、今は敵です!」


 バッサリと仲間意識を求める二人を切り捨ててはルーレットを回し始める瑠香。

 その目に迷いはなく、あるのはただ勝利に対する意欲のみ。


「る、るかぁ~」


「お姉ちゃん悪いけど、私だってやるときはやるからね!」


「……そんなぁ~」


 このままでは負けると思った七瀬は心の中で願う。


 ――お願い神様、蓮見様。なんでもいいから瑠香の独走だけは止めて。


 だけどそんな姉の祈りを全力で無視する瑠香は止まりゆくルーレットに目を向けたまま集中している。


「……これで安全圏に行けなければ私が……私も……危険……になる」


 一瞬チラッと視線を別方向に向けて呟く。

 さっきから急に黙った蓮見。

 その蓮見がさっきから目を閉じて、静かに何度も息を吸っては吐いてを繰り返しているのだ。

 ゲームの中だけでなく、現実世界においてもこれほど不気味で自分の内側にある普段中々燃えない闘志を刺激してくる【神眼の神災】はやっぱり最後まで警戒し続けなければならない、瑠香の燃える闘争心とは別に冷静な頭がそう判断したのだ。


「……瑠香も感じ取ったのね?」


「はい。この勝負、気付けば……ですね」


「そうね。ゲームの中でもリアルでも変わらないわよね」


「……ですね。この限界ギリギリのスリルをいつも提供してくる、そして私達の心に直接訴えかけてくるこのなんとも言えない感情がいいですよね?」


「うふふっ。そうね……でも、勝つのは――」


「いえ、勝つのは――」


「「――わたし以外にあり得ない!!!」」


 二人の目が見開かれた。

 一位を掛けた二人の戦いの結果が今決まった。


「出た目は……四」


 これで瑠香の合計の目の数(出目)は十五。となった。

 よって安全圏にいち早く到達した瑠香が実質の順位以上に一位へと王手をかける事となった。これでもし他の四人が瑠香の合計の出目の数を超える事ができなければ、一気に瑠香の独占場へと変わる。

 そうなれば怖い物は何一つない。


「っしゃぁああああああ!」


 珍しく感情を表に出し、天高く拳を向けて大きくガッツポーズをした瑠香。


「さぁ、次はお姉ちゃんの番よ!」


「……ッ!?」


 追い詰められた七瀬はそのまま奥歯を噛みしめて、無言のままルーレットを回す。

 もう何かを口にして話す余裕すらない七瀬。


「……六。よかったぁ~」


 安堵のため息混じりで出た目を見て、表情に笑みが戻る七瀬。

 今度は美紀が追い詰められる。


「くッ……皆此処に来てしぶといわね……」


 合計の目の数(出目)が七瀬、十四。

 とりあえずエリカに追いついたという安心感を得て、一息ついている七瀬を横目に舌打ちをしながらも美紀の手が動く。


「こうなったら私もこの波に乗ってやるんだから!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る