第240話 毒龍最高峰の一角を占める者


 五人はギルドクエストを受注し、目的地である深淵の山脈に来ていた。

 それは太陽の陽が木々の葉に邪魔され辺り一面薄暗い場所で湿っている。

 木々も一本一本が高く、短い物でも推定十五メートルから長い物で推定五十メートル程。

 その為か、モンスターも鳥型が多く空を飛んでいる。

 下手にこちらから攻撃しない限り木の枝の上からこちらを見下ろしてくるだけで攻撃もしてこない。


「これ、攻撃されたら反撃が限られるわね」


「確かに……」


「お姉ちゃんとか紅さんならともかく、私と里美さん、後はエリカさんだと結構キツそうですね……」


「そうね。これは平面と言うよりかは空間を使った攻撃が必要になりそうね」


「ちなみに私は遠距離攻撃ないからその時はお願いね、四人共」


 エリカがボソッと呟いた。

 すると、


「「「「…………」」」」


 四人が黙って冷たい視線を送る。


「だってしょうがないじゃん! 私生産職なんだもん」


 エリカが唇を尖らせて蓮見の元へダイブする。

 それから目から涙をポロポロ流し、身体を密着させて甘えだす。


「嘘泣きはいいから離れなさい!」


 美紀が強引にエリカを引き剝がす。

 意地でも離れようとしないエリカ。

 両腕を回ししっかりと蓮見に抱き着く。

 そこに七瀬と瑠香が加わる。


「く、苦しいぃ……」


 しばらく蓮見が苦しんでいるとエリカが力尽きてくれたことで苦しみから解放された。


「もぉ強引過ぎ、三人共」


 美紀が軽く拳を握りエリカにげんこつする。


「ばかぁ」


「てへっ」


「紅大丈夫?」


「紅さん?」


「うん。なんとか」


「「ならよかった」」


 蓮見がほほ笑むと、七瀬と瑠香も微笑んでくれた。

 そんな平和なやり取りを五人がしていると、森の木々が急にざわつき始める。


 ”ガサガサ”


 風が強くなり、さっきまで近くにいたモンスターが一斉に逃げ始める。


「皆気を付けて」


 七瀬の言葉を聞いた全員が周囲を警戒する。

 なんとなく雰囲気でわかる。

 これは大型モンスターが今まさに近づいてきているのだと。

 不意打ちを避ける為、五人はお互いに背中を預ける形で陣を組み円状に展開した。


「里美、ルナ?」


「どうしたの?」


「お姉ちゃん?」


「もし空から攻撃されたら紅とエリカさんを任せていい?」


 真剣な表情の七瀬。

 チラッとその姿を見た四人が察する。

 今まで楽しむ事を優先していた七瀬もまた本気で勝ちに来たと。


 蓮見と行動する中で美紀、瑠香はその影響を受け楽しみながら勝ちにこだわり始めた。


 その時と同じ状況。

 誰しもそうなる前触れは存在する。

 七瀬の場合、それが今。

 今まで勝ちに対する執着心がどこか弱かった七瀬の気持ちが切り替わった。

 七瀬もまた【神眼の神災】に強く影響を受けたのだ。


 あの日――ミニイベントの日知った。


 ルフランを始め綾香とソフィ達は強かった。

 自分達は三人掛りで生き残れた。

 だけど【神眼の神災】は自分達を含めた九人の攻撃をあの日受けきったのだ。

 もう生半可な攻撃じゃ自分だけが置いて行かれると初めて恐怖した。

 そしてその悩みを一人抱えこんでいた。

 だけどここに来て、この緊張感を味わった時気付いてしまった。

 全身がワクワクしていると。全てをぶつけても勝てるかわからない相手なら最初から全てをぶつけるしかないと。

 ましてや仲間にならもっと信じて背中を預けていいのではないかと。

 今までは余力を残しておかないと蓮見がと言ってきた。

 だけどそれは言い訳だった。

 瑠香が最近成長していく中で知った。

 蓮見は仲間に対して一度も攻撃した事はない。

 それは蓮見が自分で思っているより周りを見れている証拠。

 だったら見せつけてやろうではないか。

 私の本気を。

 私はまだまだ戦えるのだと。


「「わかった」」


 二人が頷く。


「……にしても凄い気合ね。珍しい」


「これは負けてられないかな。私も今日は本気で行く」


「へぇーなら私も便乗しようかな」


 七瀬の闘志が瑠香に伝わり、美紀にまで伝わった。

 それを見た蓮見とエリカは頷き合い意思疎通をする。

 自分達は自分達のやるべきことをするのだと。


 その時、三人の闘志を持ってしても圧を感じる雄たけびが聞こえてくる。


「グオォォォォォォ!!!」


 蓮見達が上を見上げると、空から巨大な龍が舞い下りてきている途中だった。

 胴から伸びる首は三つ。巨大な翼が二枚あり、足は二本。それでいて長い尻尾。

 全身の色は黒と紫でありながら、装飾品をクエストボスが装備している。

 青白く光る玉と龍の牙で作られたネックレスに金色に光る防具。

 六つの眼光はそれぞれ赤、青、黄色で首ごとに色を変えて光っている。

 過去今まで遭遇した事がないぐらいにHPゲージが多い。

 もちろんMPゲージも。全身からは毒の煙を常に排出しており近づけば毒の異常ダメージは必須だと見てわかる敵の名はアルティメット。毒龍最高峰の一角を占める名である。


 ゴクリ


 全員が息を呑んだ。

 アドレナリンが過剰に全身から分泌され始める。

 手汗は怖いからではなく、嬉しい証拠。


「「「「「面白い」」」」」


 五人が微笑み言った。

 それからアルティメットはプレイヤーが攻撃可能戦闘区域まで高度を落とした。


 ――戦闘開始だ。



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