第181話 二人一緒の登校




 ――後日。


 蓮見は珍しく美紀と一緒に学校へ登校していた。

 朝早くから美紀が蓮見の家に来たのだ。


 朝が弱い蓮見はそこから強制的に叩き起こされた。

 蓮見が珍しい事もあるものだなと疑問に思い、何故一緒に登校するのかを聞くと今日は一緒に行くの一点張りだったので理由はわからない。


 ただ隣を歩く美紀。

 いつもなら話しかけてきそうな所ではあるが、家を一緒に出てから一言も話さない。


 蓮見は美紀がこうなった理由に心当たりがないか考えて見る。


 ――。


 ――……あ!


 そう言えば昨日の放課後一緒に帰宅するあたりから元気がないと言うかソワソワしていると言うかいつもと様子が違う気がするな、と蓮見は思った。


 だけど人間誰しもそうゆう時があっても可笑しくない。が、やっぱり心配になる。


 それから更に寝起きの頭を使って推理をしていく。


 一昨日ゲームで皆と遊んだときはいつも通りだったし、別に変った様子は見られなかった。となるとやっぱり昨日に何かあったのだと蓮見は考える。

 その時蓮見の頭の中で嫌な予感がした。


「そう言えば一昨日ログアウトする前……美紀とエリカさんの近くで偶然すれ違ったプレイヤーの人を見てハーフの金髪美女って近くで見るとやっぱり可愛いな~ってつい口走って言ったな。でもその後二人にビンタされて怒られたし……いやあれで許してくれていなかったのか……ん~どっちだ……それはセーフかアウトか……いやアウトなのか……セーフじゃダメか……いやダメなのか……ダメそうだよな……やっぱりダメっぽいな……」


 蓮見はブツブツと言いながら、自分に心当たりがある事を思い出した。

 今からでももう一度誠心誠意込めて謝って許してもらった方がいいのか?

 でも別に「アイドルを見て可愛いー」って感じで言っただけだしな、と蓮見は当時の自分の気持ちを確認する。別にそこに下心や異性として好意を抱いていたわけではない。だからセーフと自分に言い聞かせるが、それ以外に心当たりがない以上それが濃厚だった。


 ――ドクン、ドクン、ドクン。


 男、蓮見。

 このまま美紀と気まずい関係は正直辛い。

 ならばここは男らしく、まずは謝るが正解だと考える。

 それで許して貰ったうえでしっかりと誤解がないように自分の意見を伝えるのがベストな選択だろう。


 ならばやる事はただ一つ。


「なぁ、美紀?」


「ん? どうしたの?」


「その……一昨日は本当に申し訳ない事をしたと思ってる。別に美紀やエリカさんを傷つけたいとかあわよくば嫉妬して欲しいとかそう言った意味じゃないんだ」


 蓮見は美紀の顔色を伺いながら、慎重に言葉を選び謝罪をしていく。


「あれは何て言うか――」


「あれはもう許したけど、急にどうしたの?」


 突然の謝罪に美紀が首を傾げる。

 そしてさっきより困った表情になってしまった。


「あれ? 俺に対して謝罪の機会を与えるためにわざわざこうして一緒に登校してくれてるんじゃないの?」


「はぁ~? なにバカな事を言ってるの?」


「だって……」


「もしかして熱あるんじゃないの? ちょっとそこに止まって」


 美紀は蓮見を止めて、正面に立ち背伸びをして蓮見のおでこに手を当てる。

 ひんやりと冷たい手が蓮見のおでこに触れ、ちょっぴり気持ち良かった。


「熱はないみたいね、よかった」


 胸に手をあて、一安心する美紀。


「それで急にどうしたの?」


 するといつもの美紀の表情に戻った。

 それから立ち止まった蓮見の手を握り、一緒に歩き始めた。

 だけど蓮見以上に照れてしまった美紀はすぐに蓮見から手を離す。


「いや、昨日から元気ないなって思って。それに今日一緒に登校って珍しい事言ってきたなーって思って」


「あぁ、それ。本当はね、朝は一緒に登校すると遅刻するかもだからってことで一人で行ってたんだけど……その……なんて言うか……ほら……」


 急にモジモジして、チラチラと横を歩く蓮見を見て美紀。


「顔赤いけど大丈夫か?」


「う、うん。そ、そのね……帰りだけじゃなくて朝も一緒にいたいなぁーなんて思って……ほら私達の学校って最近カップルが急に増えたじゃない? だから一人が少し寂しいなー……とか思って。やっぱり朝は迷惑だったかな?」


「なんだそうゆうことか。別に迷惑じゃないけど、わざわざ八時に学校に行くのは早すぎると思う。せめてあと十五分遅くして欲しい。もっと欲を言えば俺がいつも学校に着く二十九分に着くようにしてくれたら全然大丈夫」


 蓮見が願望を添えて美紀に言う。

 すると美紀の初々しさが完全に消えていつもの美紀になった。


「そっかぁ。人がめっちゃ勇気を振り絞って昨日からどうやって誘おうかと考えていたのに当の本人は私の気持ち完全に無視ってこと?」


 美紀の頬っぺたがフグのように膨らむ。


 蓮見はそれを見てこれはこれで可愛いと思ってしまった。

 そして膨らんだ頬っぺたを両手で潰したら面白そうだなと思ったが今そんな事をしたら嫌な予感がすると思いそれは止めた。美紀の中にいる小悪魔が目覚める、そんな予感である…………。


「あっいや……。わかった。明日から一緒に八時十五分に着くようにいかないか?」


 蓮見少々答えを間違えたらしく。


「わかった。はすみぃ~?」


 美紀が小悪魔美紀ちゃんになった。

 蓮見の直感がそう言っている。つまり蓮見にもう選択肢はあってない。

 後は美紀が望む答えを言い、可愛い幼馴染のお願いを聞いてあげるが蓮見の役目というものだろう。だけど不思議と嫌ではなかったりする。美紀がここまで心許してくれているのはやっぱり自分だけ、そう思えるからこそ蓮見は蓮見で内心嬉しかったりもする。


「はい」


「約束だよ?」


「う、うん。これから朝頑張ります」


 すると少し小走りで前に出た美紀が言った。


「寝てたら毎朝起こしてあげるから安心していいよ。それと早く私のポイント稼ぎなよ。じゃないと本当に私誰かの彼女になって何処かに行っちゃうかもだよ!? 泣き虫はすみぃ~くん」


 蓮見は慌てて追いかけて美紀を止める。


「ちょ、美紀、頼むからそれは外では言うなって」


 美紀の肩に手を乗せて止める。


「やぁ~だよ~、べぇー」


 すると美紀が甘えた声でそれを否定して舌を出して来た。

 それから二人は通学路の人目を気にせずワーワーワーワーとまるで小学生のじゃれ合いをしながら登校した。


 周りから見ての蓮見と美紀はとても楽しそうでそれは平和な朝そのものだった。



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