第165話 目に見えない火花
イベントも残り一時間を切った頃。
「それにしてもこの騒がしさ……思ってた以上だね」
「そうねー。てか【灰燼の焔】ギルドと【雷撃の閃光】ギルドのドンパチに巻き込まれたのか触発されたのかわからないけど、どのギルドも最後の悪あがきに入ったっぽいわね」
とは言ってもイベント開始から考えると既に半分以上のギルドは壊滅。
更に殆どのギルドは生き残る事に精一杯と何処もギリギリな所が多かった。
肉体的疲労に自分達の実力以上に拠点を保有する事の厳しさと考えられる点は幾つもあった。元々運営は皆で協力して欲しいという願いから小規模、中規模ギルドの不可侵条約や同盟などがもっと増えるかと思い大型ギルドとのハンデをそこまで大きな物にはしなかった。むしろ最後の最後で大規模ギルドを中心とした連合軍と言った具合にかなり大きな連合が二つ三つとできそれで勝敗が決する物かと考えていたわけだが、残念ながらそうはならなかった。
「それでエリカさんはどうするの……お姉ちゃん?」
「う……うん。どうしようか……」
七瀬はご機嫌斜めのエリカをチラッと見てどうしたものかと考えていた。
美紀をからかったまでは良かったものの、弱った幼馴染である美紀を慰める蓮見を見たエリカの機嫌が最悪に悪くなったのだ。今も拠点の中では美紀の頭を撫でる蓮見を見てはイライラしているのである。
「なんで里美さんをあのタイミングでからかったの?」
妹の突き刺さるような視線に七瀬が反省する。
「だって……」
「そりゃお姉ちゃんの気持ちもわかるけど……ここに誰がいるかまで考えて行動してよね?」
「ごめん……」
瑠香はため息まじりに反省する七瀬と嫉妬を隠し切れていないエリカを交互に見る。
抗争が激しくなり、一発逆転を狙いどこもランキング上位に入っている大型ギルドのギルド長を狙っている為、【深紅の美】ギルドは十一位をキープしたまま少し長い小休憩を取っている。だがいつまでもこのままというわけにはいかない。なのだが、蓮見が動けるようになっても今度は別の問題と心配が出て来て今は休憩をしている状況である。
「エリカさんもご機嫌を……」
「絶対嫌!!!」
いつもお姉さんキャラのエリカでは合ったが、蓮見と美紀のイチャイチャにどうやら我慢の限界のようだった。それでも二人を強引に引き離そうとはしないところを見る限り、エリカはエリカなりにこれでもかなり頑張っている方である。
七瀬はメッセージを使い蓮見に『ごめん。エリカさんの機嫌が悪いんだけど何とかしてくれない?』と助けを求めた。
するとすぐに返信が来た。
『いいですけど、どうやってですか?』
『美紀と同じように頭を撫でてあげて。私もイベント頑張ってるのに……って不満があるみたい』
七瀬は少しだけ嘘をつくことにした。
これでエリカの好意の事を言って美紀の心の中にある嫉妬心を再び点火させる可能性を少しでも減らす為だ。
『わかりました』
蓮見の返事を見た七瀬はエリカの隣に行き、さり気なく蓮見の隣まで誘導する。
「さぁ、エリカさんもお疲れでしょうから敵が来るまでここで休んでいてください。見張りは私とルナでしておきますので」
「え? いや別に私……」
「紅? なら後は頼んだわよ」
「はい」
そう言って七瀬は逃げるようにして拠点の外へと戻る。
何処かイライラしているようにも見えなくもないエリカを蓮見は開いているもう片方の手で七瀬に言われた通りに頭を撫でる。
「きゃぁ!?」
とても可愛らしい声。
「うぅ~」
そのままゴソゴソと動いて蓮見の膝の上で甘える美紀の隣に行き、開いているスペースに強引に入ってくる。
「えへへ~」
そのままさっきまでの機嫌の悪さは何だったのかと言いたくなるぐらいの表情と態度に蓮見は七瀬の言っていた事は本当だったのか?と少し疑問に思ったが、二人の機嫌が悪いよりは百倍マシだと思い深くは考えないようにした。
かなり機嫌がいいのか――。
「あっ、エリカどうしたの?」
「頑張ったからご褒美貰ってるの」
「そっかぁ。気持ちいいよね~」
「そうね~」
と美紀とエリカの楽しそうな会話が聞こえてきた。
その時蓮見の身体は思わずビクッとしてしまった。
『あれ? 二人共めっちゃ笑顔なのに……』
蓮見は目に見えない火花が両者の間でバチバチとぶつかり合っている事を薄々感じ取っていた。
ゴクリッ
ここで今余計な事を言ったり、手を止めたりすると二人の何かが自分に襲い掛かると思い蓮見は黙って手だけを動かす。
『ミズナさん……さては俺を騙したな』
蓮見は拠点の外にいるであろう七瀬に向かって心の中でボソッと呟いた。
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