第163話 手のひらで遊ばれた者達


 綾香が毒の霧の中で倒れる蓮見に目を向けると、七瀬に続くようにして瑠香、エリカ、美紀の順で毒の霧の中へと入っていく。


 その直後だった。

 拠点を放棄する気なのか、拠点の周囲で爆発が連鎖的に置き始める。

 そして地響きに【神眼の天災】の雄たけびと爆発。


 綾香とソフィは知っている。

 この蓮見の雄たけびと地響きからの爆発を。


「マズイ……」


「綾香!」


「わかってる。だけどここじゃ援軍を呼べない……」


 そこに一人のギルドメンバー。


「報告します。先程【灰燼の焔】ギルドの幹部クラスであるスイレン達がこちらに到着し我が軍は押され退路を断たれました。このままではこちらに押し寄せてくるのも時間の問題かと思われます」


 戦線の悪化。

 こちらに集中するあまり、【灰燼の焔】ギルドが主戦力を送り込んできたことに気付くのが遅れた。


 視線を泳がせれば【深紅の美】ギルドメンバーはもういない。


 この混乱に合わせて逃げたのだろう。


 綾香とソフィは唇を噛みしめる。毒の霧は綾香に攻撃をするためではなく、七瀬の回復魔法とギルドメンバー全員が逃げる為の目くらましだったのではないかと今になって気付いた綾香。


 そしてこのタイミングで各所の爆発。

 つまりはあの時と同じくアイテムのタイマー操作、もしくは聞いた事がないがアイテム遠隔操作系統のスキルを使われたのではないかと考えていた。


 つまり自分達は【深紅の美】ギルドメンバーにまんまと挑発され嵌められたのだとようやく気づかされた。


「ソフィ?」


「なに?」


「私が道を作る。逃げて」


「無理だ! スイレンはともかく幹部クラスが他に居ては綾香一人では」


「私は死んでも復活出来る。だけどソフィが死んだら全てが終わる。なによりこうなった以上拠点を犠牲にしてでも【灰燼の焔】と戦う道を裂けては通れない。私達は紅に嵌められたのよ」

(正に天災ね……)


 綾香は悔しそうにして呟く。

 そう自分達はまんまと嵌められて利用されたのだと。


 大型ギルドの相手は大型ギルドにしてもらい弱った方の首を取りに行く。


 何とも美紀と七瀬が好みそうな手である。


「こうなった以上覚悟を決めましょう。生きるか死ぬかの」


「わかった。悪いが殿(しんがり)はお願いする」


「えぇ。この恨み絶対に晴らすから、紅。それまでは私達は負けない!」


「では足場が悪いが私はあの茂みに隠れながら本拠点まで行くとする」


「わかった。なら私が敵の注意を引き付けるわ」

(茂みにある比較的新しい足跡の痕から見て紅達もココを通ったみたいね……)


 そう言って二人はHPポーションとMPポーションを飲み準備を整える。

 正直小規模ギルドとは言え、トッププレイヤー三人と予測不能コンビ二人を相手にした身体の疲労感は測り知れなかったが今はそんな事を言っている暇はない。


 なにより綾香の闘争心は更にメラメラと燃えていた。


「やっぱり格下……ではないってことか。ミズナの的確なアシストで九死に一生を得た紅。今は休んでいるといいわ。次は確実にその首を取るから……」


 ブツブツと独り言を言う綾香。


「奇跡はそう何度も起きない。どんなに頑張っても最後は力ある者が勝つんだよ、紅」


 それを見たソフィはこう呟いた。


「奇跡ではないな。あの時四人に殺意はあった。だけど私を本気で倒す気はなかった。つまり全てはアイツらの手のひらだったというわけで……つくづく見ていて面白い男だな、神眼。悪いが久しぶりに私の闘志も燃え始めてきたよ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る