第130話 エリカの判断と行動



「ここからが本当の勝負ね。小規模ギルドはどんどん減ってる。かと言ってここで敵を倒し続けても五分後には復活されるしキリがないわね」


 美紀はイベントMAPのメモ欄に襲って来た全ての敵の情報を精確に記載していく。


「ん? ……あれは?」


 美紀は遠くから来る一つの集団を見て、初めて焦りを感じた。

 今まで戦って来た相手とは違う謎の集団。

 装備は全て赤色。

 どこか統一された装備につい苦笑いしてしまった。

 美紀は急いで拠点を護る振りをして時間を稼ぐか、このまま逃げてゆっくりと向かってくる大型ギルドに対抗するかを考え始めた。


 この時【深紅の美】ギルドは予定よりも早い段階でギルドの場所が把握され始めていた。

 各偵察隊の報告や蓮見達によって倒された者達からの情報から【神眼の天災】は山の奥、それもある地点でしか見ていないと早くも多くのギルドで噂されつつあった。それは撃破したギルドだけではなく、大型ギルドでそれも優勝候補と呼ばれるギルドに対抗する為に小規模、中規模、大規模ギルドが中心となって出来つつ合った各同盟ギルドにも当然情報は回り始める。


「一応エリカの進捗状況次第だけど……」


 美紀は祈るようにしてエリカにメッセージを送った。


『後どれくらい時間が必要?』


『何かあった? 後十分は欲しいけど』


『うん。結構ヤバイ……。とりあえず十分ね』


 美紀は一度深呼吸をして、後数分もしたら到着するであろう敵を迎え撃つ覚悟を決めた。



 美紀から連絡を受けたエリカは罠の設置を急いでいた。

 なにせ数が数なだけに沢山あるのだ。

 本来であれば罠となりえない手榴弾さえ今のエリカは遠隔操作で罠として扱う事が出来るのだ。

 それも適当にではなく美紀とイベントMAPを見ながら念入りに計画した場所にとなるとそれはそれでかなりの重労働となるわけで。


 だけど今も戦っているであろう美紀と七瀬と瑠香の為にもエリカは流れる汗を無視してせっせと設置していく。


 エリカとしては皆で最後まで楽しんでイベントを終える事が出来ればそれで満足なわけだが、どうせならせっかく皆で戦っているのだから最後は勝ちたいと内心は思っている。


 戦闘用の物を除けば後少しで終わるのだが、一つ気になる事がある。


 それはさっき美紀から来たメッセージの内容だった。

 あの美紀がヤバイと言う事はかなり強力な敵が来たということだろう。


 そして考える。

 今の自分には何が出来るのかを。

 別に美紀は倒されても五分後には復活出来る。

 だが美紀が倒されたとなると、それはその事実だけで済むのか。


 そう考えると……。


「マズいわよ……。里美が仮にも倒されたら紅君だって多少動揺するはず。そしてギルド長の動揺はミズナとルナにも広がるかもしれないわね」


 エリカは知っている。


 七瀬と瑠香は蓮見と美紀なら負けないと心の中で思っているからあんなにも安心している事を。特に瑠香はその傾向が強い。自分の斜め上を常に行く蓮見を良くも悪くも過信している気がするのだ。


「だったら今私に出来る事は……これしかない!」


 エリカは全力で走り始めた。


 罠も大事だがそれより今はやるべきことがあると自分で判断して動き始めたのだ。


「もし里美が負けたら、敵が更に勢いに乗るかもしれない……。そうなると分が更に悪くなる」



 作戦会議を含めた休憩で約四十分しっかりと休んだエリカの身体は軽く思いのほか早く目的地に到着しそうな勢いだった。


 お願い、間に合って!


 そう心の中で呟きながらエリカは急ぐ。


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