第131話 【灰燼の焔】ギルド
美紀が焦りを感じエリカが一人動き出した中、七瀬と瑠香は【灰燼の焔】ギルドの偵察隊と闘っていた。
「ルナ! 拠点は取られてもいい。だけどこいつ等はここで倒すわよ!」
七瀬は気合いを入れて【灰燼の焔】ギルドメンバーを牽制するようにして叫ぶ。
この拠点は後少ししたら破棄予定でなので、無理して護る必要はないのだ。
それよりもここを突破されることの方が今は色々と問題なのだ。
「数は……後十人。このまま行けば勝てる」
七瀬と瑠香は後半の事を考えて体力を温存しておきたいので無駄な動作はせずに敵の攻撃をギリギリまで引き付けて戦っていた。
肉体的にはまだまだ元気な二人だが精神的に後七時間と思うと多少なりともペース配分をしないとマズいと言う感覚に襲われていたのだ。
「ルナ!」
七瀬の声に反応するようにして瑠香が一回七瀬に合流する。
MPポーションの予備はまだある。ここはアイテムの消費を気にしている場合ではない。
そう思い、まとめて敵を倒す事を考えた。
「スキル『焔:炎帝の怒り』!」
七瀬の必殺とも呼べるべき、魔法が敵プレイヤーに向かって飛んでいく。
すると目の前に大きな石の壁が地面から空に向かって出現する。
そして敵プレイヤ―を護るようにして現れた石の壁によって七瀬の魔法は無力化されてしまった。
「お姉ちゃん、これはもう本気で行くしかないんじゃない?」
その言葉に七瀬が迷う。
後先を考えなければ何となる気はする。
だけどそれでいいのかと。
「ここを抜かれれば私達が復活するまで紅が一人でこいつらと戦って拠点を護る事になる。そうなると紅は奥の手を使わないと厳しい……」
見た限り敵はそのことをわかっているようだ。
自分達の攻撃パターンが全て読まれているような気が途中からしていたのだ。
だけど七瀬と瑠香の連携が速過ぎてついて来れなかった雑魚プレイヤーが今は倒れただけであり本当に強いと思われるプレイヤーはまだ全員生きている。
「仕方がない。ルナは悪いけど本気であいつら倒してきてくれる?」
その言葉に瑠香がニヤリと笑って、敵に向かってゆっくりと歩いて行く。
「任せて~。ちょうど暴れたいと思っていたんだ」
瑠香の雰囲気が変わる。
さっきまでの前哨戦で身体は既に温まっているので、後は気持ちを切り替えるだけで良かった。
【灰燼の焔】ギルドメンバーはこの時瑠香の雰囲気が変わった事を感じ取り様子を見ていた。そう彼らもまた知っていた。前衛の瑠香、後衛の七瀬はとてつもなく強いと。だからこそ警戒した。
だが強者の前でそれは時に有効で、時に愚策となる事を知らなかった。
「スキル『加速』!」
瑠香が敵に向かって突撃する。
「スキル『水手裏剣』!」
すぐに七瀬が援護に入る。
この時敵の目は瑠香に集中していた。
瑠香の覇気に呑まれた者達に七瀬を気にするだけの余裕がなかったのだ。
「スキル『水流』!」
七瀬の『水手裏剣』と瑠香の『水流』が敵の両サイドから回り込むようにして襲い掛かる。魔法使いが左右から飛んでくる攻撃を迎撃する。
そして魔法使いの支援がなくなった間に敵前衛部隊の懐に入り込む。
「スキル『ペインムーブ』!」
更にダメージを無視して敵の奥へと入り込む瑠香。
狙うは指示役ただ一人。
だがそれを阻止しようと瑠香が囲まれてしまう。
それでも瑠香は迷わずスキルを使い攻撃した。
「妹に手を出すな! スキル『焔:炎帝の怒り』!」
瑠香の背後から攻撃をしようとしていたプレイヤーの背後から今度は七瀬が魔法で攻撃する。
そして七瀬が飛んでくる魔法攻撃を躱し、瑠香を追いかけるようにして走り始める。
「スキル『サンダーブレイク』!」
反撃をしながらも確実に距離を詰めていく。
障壁とは言え四人の魔法使いが連携して作る障壁は『焔:炎帝の怒り』でも破壊するのが精一杯だった。
追撃に気付いたプレイヤーは瑠香への攻撃を止め、回避行動に入る。
刹那、瑠香のレイピアが敵の指示役を攻撃する。
「まだまだ! もういっちょスキル『ペインムーブ』!」
更なる追撃に指示役のHPゲージがなくなっていく。
慌てて指示役の回復に入る魔法使いではあったが、それは強制的に中断される。
それはほんの一瞬だったかもしれない。
だがその一瞬が取り返しのつかない事にだってなるのだ。
「うそだろ!?」
「しまった……ッ!」
そう気付いた時には七瀬はもう相手の魔法使いの目の前まで来ていたのだ。
「悪いけどこっちも里美相手に正面から戦えるだけの実力ぐらいはあるわよ!」
そう言って七瀬の杖が凶器として振るわれ四人を無力化する。
「だから人の妹に手を出すな! スキル『水手裏剣』『サンダーブレイク』!」
あっという間に抜かれた前衛が標的を切り替えて再び指示役を倒そうとする瑠香を攻撃しようとしていたがすぐに七瀬がそれを阻止する。
本気になった七瀬達の前ではこの程度の戦力ではたった二人のHPを半分削る事すらできないと偵察隊は知り、その後すぐに全滅した。
敵は七瀬と瑠香の実力が情報とどれだけ誤差があるのかを調べるつもりだった。
収穫として十分だった。
五分後それはもうしっかりと報告できるであろう。
【灰燼の焔】ギルド内ナンバー四(フォー)と呼ばれている指示役ですら瞬殺されるぐらいにあの二人は強く、まだ奥の手を隠している気がすると。
「とりあえずこんなものかな?」
「そうだね。ところでお姉ちゃん?」
「なに?」
「なんでお姉ちゃんまで急にやる気出してるの? ペース配分は?」
「いや……瑠香が嬉しそうに微笑んでいるの見たら、つい我慢できなくなって。あはは~」
「もう、せっかくギリギリでカウンター決めて最後は華やかなに決めるつもりだったのに」
口を尖らせてブツブツ文句を言う瑠香に七瀬は笑って誤魔化す。
「別にまぁいいけど。それにしてもやっぱり紅さんに付いてきて正解って感じしない?」
「うん?」
「あいつら【灰燼の焔】ギルドメンバーでしょ? ソフィーさんと綾香さん率いる【雷撃の閃光】ギルドと言いこんな強い相手から警戒されるって私達凄いと思わない? たったの五人しかいないのにだよ?」
「ふふっ。そうね。にしても久しぶりね、ルナがそんなにワクワクしてるの」
「わ、ワクワクなんかしてないもん! すぐ私を子供扱いして、ったくもう」
「はいはい。そうゆう事にしといてあげるわよ。あれ紅からメッセージだ」
「あっ。本当だ。私にも来てる」
その時、蓮見からメッセージを貰った七瀬と瑠香は『了解!』とすぐに返事を返して一旦ギルド拠点へと戻る事にした。
二人はこの時ワクワクしていた。さっきまで後七時間もあるのかと内心思っていたが、イベントがようやく盛り上がって来たのだと思うと嬉しくて仕方がなかった。
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