第95話 継承



「へぇ~。紅さんはやっぱりお強いんですね」


「そんな事ないと思うけど……」

 話していく中で瑠香は一つ下の女の子だとわかった。

 そして本人の希望で蓮見は普通に話している。

 その中で、七瀬は妹の瑠香にはギルドに入った事を言ってなかったとわかった。


「いえいえ。あの綾香さんが警戒するべきお方だと言われてましたよ。今も提示板では紅さんの事で盛り上がってますし」


「紅は提示板を全く見ないわよ。そもそも必要としてない人間だからね」


「え? それ本当ですか?」

 信じられないのか、目を大きくして驚く瑠香。


「うん」


「だから自分が有名人って事にも未だによくわかってないし、自分がいつも何をやっていてそれが異常だって事にも気づいていない。そうよね、紅?」


「いや……気づくもなにもいつも普通ですから。人を変人みたいに言わないでください」

 困った顔をして答える蓮見。


 それを見て逆に困る姉妹。

 どちらの感性が正しいかは一先ず置いておくとして、どちらの意見が世間的に共感できるかは一目瞭然だった。


「お姉ちゃん……私の感性可笑しいかな?」

 瑠香が心配そうな顔をして七瀬に質問する。


「大丈夫。ルナは正しい……と思うわ」

 妹が間違っていないと教えてあげる七瀬。

 だけどここ数日蓮見と一緒にいたせいか最早これが普通なのかなと思い出した七瀬はハッキリと答える事が出来なかった。これくらいの誤差は最早許容範囲内となりかけていた。


「おっ!」

 蓮見が岩で出来た足場を歩いていると前方に黒と赤の如何にも怪しそうな門が姿を見せる。


「あれです。あれが悪魔の拠点となっている洞窟の門です」

 蓮見達はNPCの女性が指さす門の前まで行く。

 すると女性が何か呪文のような事を言いだす。


「我が娘の魂を返したまえ。煮えとなる魂を盟約の元、汝の元に捧げる。ただし毒には毒。悪は悪を持って対抗するべし。ならば悪魔には悪魔の力を持った者を導くが如し。我が名は女神××××。戒めの門よ我が名の元にその守護を破棄することを命ずる」

 そしてNPCの女性の背中から白い翼と天使の和が出現する。

 門は脂が切れたような音を鳴らしながら開く。

 そして天使となった女性は蓮見の前に来る。


「後は頼みました勇者様。悪魔アステロンを倒した貴方様ならその主人も倒せるはずです。僅かばかりですが、私の最後の力を授けます。毒には毒、ならば悪魔には悪魔。……と言いたいですが今の私には天使の力も悪魔に対抗する力も殆ど有りません。ですがないよりはマシでしょう。ご武運を」

 そう言って天使は蓮見の身体の中に直接光の球を入れる。

 痛みはなく、蓮見が天使を見ていると、姿が薄れていき消えた。


 執事の格好をした悪魔アステロンを毒を使いHPを三割以上奪った場合に出現するエクストライベントである。もし普通に倒していたら、女性は天使にならず姿を消すように運営はしていた。


『スキルを獲得しました』


「これは……?」

 蓮見は目の前に出現したパネルを見て微笑む。

 女神が最後にくれたこの力が蓮見の新しい力となると確信したのだ。


「大丈夫?」

「大丈夫ですか?」


「あっ、うん。では行きましょうか」

 そして三人は門の中へ入っていく。

 中に入ると、大地は茶色で所々溶岩が溢れ出ている場所が赤くなっていた。

 その奥に一人の少女が空中浮遊する椅子に座っている。


 その身体は人間にソックリだったが長い爪と尻尾が生えていた。

 それを除けば十歳ぐらいの少女そのものだった。

 だが容姿こそ人間に似ているが中身は全く別の魂を持つ者。

 大きくパッチリとした目、まだ幼さが残る顔と身体、口から見える白い歯は犬歯だけが少し長かった。


「スゲー、空中に浮いてる」


「んっ? あら珍しいわね。客人がここに来るとはね」

 悪魔の少女の瞳が中に入って来た蓮見達に向けられる。

 それと同時に三人が武器を構える。


「……なる程。また会ったはね貴方。私はアリステインでアステロンの主人よ」


「…………」

 三人は黙ってアリステインと名乗る悪魔の挙動に警戒する。


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