第94話 山奥
三人が歩いて行くが途中モンスターが襲ってくる事はなく、本来であればモンスターに囲まれると思われるポイントで何度かNPCの女性が苦しそうに歩みを止めることしかなかった。本来であればもっと苦戦するはずなのだが、肝心なモンスターがイベント発生前に逃げておりイベントが不発の連発となっていた。
運営はイベント発生時に周囲百メートル以内にいるモンスターがランダムで襲うように設定していた。その為、周囲百メートル以内にモンスターがいなければ不発に終わる。
「う~ん。モンスターがいない……どうなってんだ?」
天然なのかバカなのかはさておき蓮見は七瀬と女性の前を歩きながら一人ブツブツと言いながら考える。
「このよく燃える炎を見て気づきなさない馬鹿」
七瀬は小さくため息を吐きながら呟いた。
本来は敵を倒す為のスキルを山火事を起こす為に使うプレイヤー等蓮見しかいないのだ。
そのため七瀬はこれも蓮見の長所だと思い込むことにした。
「ミズナさん?」
後ろを振り返る蓮見。
「どうしたの?」
「喉渇きました。お水欲しいです」
「あのね、私達カップルじゃないのよ。そんなに気やすく間接キスになるような行為……あぁ~嘘だからそんな顔しないで」
七瀬は慌てて持っていたお水を蓮見に渡す。
蓮見がまだ何かとんでもない事をしようと考えていると判断した七瀬に選択の余地はなかった。お水を手に入れる為に別の災害を息をするように平然と起こされたらいつか巻き沿いを喰らうと七瀬の直感が感じとったのだ。
今この森は太陽の陽を受けるだけじゃなく、木が燃えているせいで火の熱も加わってとても暑いのだ。それはまるで熱帯雨林が森林火災を拡大しているような光景と気象状態でもあった。その為目には見えないが二酸化炭素や一酸化炭素のほか煤煙(ばいえん)が大量発生していた。
それからしばらくは何も起きなかった。
「うん? 敵かな?」
山奥へと来た三人は女性の指示に従い目的地である洞窟の目の前まで来ていた。
すると、三人の前方から一人のプレイヤーが姿を見せる。
そしてゆっくりと武器を構えて歩いてくる。
蓮見と七瀬が女性を護るようにして武器を構える。
先制攻撃と思い、蓮見が射撃体勢に入る。
そして、矢は一直線に一人の女性プレイヤーに向かって飛んでいく。
刹那、矢は女性プレイヤーの持っていたレイピアによって撃ち落とされる。
蓮見が次の射撃の構えを取るときには、水で出来た龍が蓮見に向かって飛ばされていた。
「スキル『導きの盾』!」
薄い緑色の盾は蓮見を護るように出現し、水の龍がそれにぶつかり効果を失う。
だが次の瞬間第二波の水龍が今度は三体同時に蓮見達に襲い掛かる。
蓮見が反撃しようとしたときには、七瀬の魔法が発動状態に入る。
「スキル『導きの盾』『サンダーブレイク』!」
防御しながら攻めに移る七瀬。
「紅、一旦下がって。相手は一人。まずは動きを制限できる範囲まで引き付ける。それから攻撃よ。でないと女性を護れない」
「わかりました」
二人は相手の顔がハッキリと見える所まで女性プレイヤーを引き付ける事にする。
その間七瀬の防御魔法と敵の攻撃魔法が激しくぶつかり合う。
「くっ、相手強いわね」
七瀬が呟く。
その時、蓮見の目が爆炎の中から突撃してくる彼女の姿を赤と黄色い丸で視認する。
慌ててNPCの女性を護るように壁になる蓮見。
そして腹部にレイピアが突き刺さる。
「グハッ!!」
「紅!」
その声に反応してかレイピアを持った女性が攻撃を止める。
「おっ、お姉ちゃん!?」
「る、ルナぁ!? なんでこんなところにいるのよ」
あまりの痛みに腹部を抑え悲鳴をあげる蓮見を他所に、ある意味感動の再開を果たす姉妹。
「この山奥に洞窟があるって聞いたんだけど、何もなかったから引き返して来たら三人の姿が見えたからてっきり敵かと思って」
苦しむ蓮見とその場で立ち止まって動かないNPCの女性を無視して姉妹で会話を始める二人。
「なるほどね。多分それはクエストが影響してるんだと思う」
何もなかったという妹に対して状況を説明する七瀬。
「そうなの? それでなんでソロのお姉ちゃんが二人と一緒……あれ男の人どこ行った?」
「えっ? 紅なら……あっ、スキル『恵みの光』!」
ここでようやく紅の存在を思い出した七瀬が回復魔法をかける。
そのまま地面に寝転び苦しんでいた蓮見の身体を優しく起こす。
「いてて」
七瀬の回復魔法によって回復した蓮見がルナと呼ばれる女性を見ると、容姿は七瀬と変わらず身長が少し小さく、ただでさえ小さかった胸が更に小さくなった感じだった。
「あっ、この子は妹のルナ。まぁ敵ではないから安心して」
「……はい」
「初めまして。私はルナって言います。さっきはすみませんでした。てっきり私と同じく洞窟を探索しに来たプレイヤーで敵かと思ってしまい……つい」
「いえ。気にしないでください」
「ありがとうございます」
ルナは笑顔で答えると、礼儀正しくお辞儀をする。
その後、七瀬が妹に事情を説明している間、紅は七瀬からもらったお水を飲みながら静かに待っていた。その後、七瀬を通して、是非妹も連れて行きたいと相談を受けた蓮見は「いいですよ」と即答した。そのまま七瀬の勧めで二人はフレンド登録をしてパーティーを組んだ。蓮見は知らないが本名は水木瑠香。
そのまま今度は四人でNPCの女性の指示に従いながら歩き始めた。
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