第52話 美紀の限界に蓮見立ち上がる


 動きが速くなった蓮見。

 それを小百合の逃げ道を予測し先回りする美紀の超近接連携攻撃に小百合の攻撃の手数が激減する。相手との距離が近すぎる為に、攻撃手段を半ば強引に封じられた小百合はひたすら耐える。


 小百合のHPゲージが三割を切ると、今度は目の色が変わる。

 そして蓮見と美紀の挟撃を躱し、大きくジャンプして距離を取る。

 二人は肩で息をしており、これ以上ペースを上げる事は不可能だった。


 蓮見がMPポーションを飲んでいると、美紀が話しかけてくる。


「後一分で小百合と戦闘を初めて二十分が経過する。そしてアイツのあの感じスキルで勝負を付けようとしている……悪いけど、後は任せていい?」


「あぁ」

 どうやら美紀は限界のようだ。

 隣で膝から崩れ落ちて、全身で息をしていた。

 顔を見れば汗まみれになっていた。


 今まで表情に変化がなかった小百合が微笑む。

 それはまるで勝利を確信した笑みのようだった。


 蓮見が目を閉じて静かな声で言う。

「スキル『精神防御』『複製Ⅰ(別名 模倣Ⅰ)』」

【鏡面の短剣】を複製し、短剣を剣にしたときと同じように長細く今までより太い水の矢をイメージする。先端は出来るだけ鋭利にして攻撃力を高める。


 そして構える。


 目を開け見ると、小百合の弓と矢が激しく燃え二人の間に赤くて綺麗に輝く魔法陣が出現していた。今までの魔法陣とは何処か違うと蓮見が直感で感じ取る。そして雰囲気に呑まれた蓮見の頬が僅かに引きずった。



 だが、美紀は……。


 そんな蓮見を見て思った。


 ――誰がこうなることを想像出来たのかと……。


 ――気付けば途中から蓮見のHPゲージは減っていなかったのだ。


 ――小百合との攻防で手に入れた力、それは……。



 そして両者の攻撃が同時に放たれる。

 美紀は今のうちにHPポーションを飲んで体力を回復していく。


「我が命ずる。秩序を乱す者達に裁きを与えよ。弓は心、弦は心を矢に伝えるバイパス。矢は裁き。裁きの象徴として悪を貫く今こそその真価を発揮しろ『レクイエム』!!!」

 MPゲージを全て使い発動した『レクイエム』は小百合の最後の一撃それも黄色い点に向かって轟音と共に飛んでいく。矢から発せられた風を切る衝撃波が木々の葉を揺らす。蓮見のHPゲージは残り二割弱とほぼ最大値で放たれた『レクイエム』が小百合の矢と空中で火花を散らし衝突する。


「悪いな。この俺に敗北の二文字はねぇ!」

 ドヤ顔で呟く蓮見。


 ――次の瞬間。


『レクイエム』を単純な威力でいや蓮見と同じく『イーグル』を使い上回ってきた矢が蓮見を襲う。蓮見は気付いていた。最初美紀の『破滅のボルグ』が相殺された時に、彼女もまた蓮見と同じ目を持っている事に。だから純粋な力勝負では勝てない事を。


だから時間を稼ぐ必要があった。

だから新しい力を手にする時間が必要だった。


「……はぁ、はぁ、はぁ、スキル『回復魔法(ヒール)Ⅱ』

 蓮見のHPゲージがなくなる前に回復を始める美紀。今は炎の耐性がある蓮見には矢の純粋な攻撃力分のダメージしかない。とは言っても大方『レクイエム』によって減速した矢では致命傷にはならなかった。


 だが、小百合の第二射が魔法陣を通り蓮見を襲う。 


 ――そして蓮見の心臓を貫く

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