第39話 癒しを求めて


「チッ。これどう見ても蓮見が一層の時に好き勝手してたからそれ対策にしか見えないんだけど……」


 そう。美紀は持ち前の勘の鋭さで気付いたのだ。


 蓮見の常識外れの行動の連発に運営は初心者一人に好き勝手されるわけにはいかないと急遽ゲームバランスを変えてきたのだ。なので今までトッププレイヤーが感じていた手ぬるさは上位イベントではなくなっている。勿論下位イベントは今までと変わらず初心者でも親しみやすくしている。今は美紀以外に誰もいないので蓮見の事を本名で呼んでいる。仮に名前を聞かれても赤の他人ならば本人とは特定されにくいだろうという判断だ。


「いいじゃない! 燃えるわ!!! スキル『加速』『連撃』!!!」

 美紀が周囲に視線を配りながら敵の態勢を崩しにかかる。

 しかし騎士達もただやられるのではなく数を減らしながらも徐々に美紀のHPを削っていた。


「こうなったらハンマーナイトは完全に後回し。スキル『連撃』『ライトニング』!」

 一瞬でも気を緩めたり攻撃の手を休めれば、騎士の数人とハンマーナイトが城門の方に行ってしまいそうな予感に美紀の頭が思い悩む。

 MPの消費を気にせず、力技でまずは騎士達を倒す事に集中する。


「良し……やっと半分倒した……マズイ!?」

 慌てて美紀がダメージを無視して城門に向かって走る。

 目を離したと同時にハンマーナイトが城門に向かっていたのだ。

 騎士達の攻撃を受けHPゲージが四割なくなる。


「スキル『破滅のボルグ』!」

 必殺の槍でハンマーナイトの心臓を貫く美紀。

 槍が刺さり地面に転がり苦しむハンマーナイトを追い抜き、『巨大化』を使いそのまま槍を回収する。


 どうやら意識を騎士達に集中するとハンマーナイトが城門に向かうように設定されているらしい。何とも面倒な事で……。騎士達が立ち上がるハンマーナイトの周りに集まり態勢を整えている間にMPポーションを使いMPを回復する。


「ボルグでも四割削れないとなると、もう一発は使わないとマズいかしらね」

 後ろを見ればもう城門までそんなに距離がなかった。


 トッププレイヤーのルフラン、綾香はこれをソロでクリアしたと噂されている。他のトッププレイヤーはお互いに手を取り合ってクリアしたと提示板には書かれていた。最初はそんなに難しいのかと疑問だったが現時点では間違いなくクリアが一番難しい常時発生イベントだろう。正直苦戦している、だけど楽しくてしょうがなかった。


「追い込まれているはずなのに笑みが出るのは誰のせいかしらね。スキル『破滅のボルグ』!」

 狙うはハンマーナイト。

 笑みを浮かべながらそのまま短刀を構え、集まった騎士達を倒しに向かう。

 槍が再びハンマーナイトの心臓を貫く。


「スキル『ライトニング』!」

 短刀が白いエフェクトを放ち雷撃を放つ。

 そうして少しづつ確実にダメージを与えて槍でハンマーナイトを足止めしている間に騎士を倒す。

 槍が抜かれ、ハンマーナイトに自由が戻ると同時に残りの騎士を一掃する為にすぐさまスキルを使う美紀。


「スキル『連撃』!」

 槍は美紀の手に戻りながら空中で白いエフェクトを放つ。

 手元に戻ると同時にスキルが発動する。これで騎士を全員倒した。


「あらら、怒ってるのかしら……!?」

 騎士が全滅しHPが残り二割となったハンマーナイトの身体が全身真っ赤に染まる。

 鎧の隙間から見える目からは赤い光が見える。


 次の瞬間、ハンマーナイトが大きくジャンプした。

 そう思った矢先凄い勢いで美紀の所に両手のハンマーを振り下ろしながら急降下してきた。

 ギリギリで反応が間に合い躱す美紀。

 さっきまで自分が居た場所を見ると、地面がへこんでいた。

 これは一撃でもまともに喰らえばマズイと判断する美紀。

 数々のプレイヤーを追い込んできたハンマーナイトの実力は確かなものだった。


「まぁ強くなったと言っても、驚きにはかけるわね。蓮見みたいに私が思いもよらない行動をしてこない限り一対一で負ける事はないわ。スキル『加速』!」

 その言葉通り、美紀は落ち着いてハンマーナイトの攻撃を躱していく。

 そしてMPが五割まで溜まると同時に『破滅のボルグ』でとどめをさした。


「ってもマジでこれしんどいわ。……こんな事なら蓮見連れてくれば良かった……」

 美紀はハンマーナイトを倒して、王と女王がいる場所に行く。

 その顔はイベント開始前と違って疲れが表情に出ていた。


「ハンマーナイト倒したわよ」


「おお! まさか本当にあのハンマーナイトを倒してくれるとは……もうなんて感謝していいかわからないな。なにより無傷で帰って来たところを見るとお主は最強の勇者かもしれん」

 こいつ何を言っているんだと内心思いつつも美紀は王の話しを聞いていた。

 NPCの王は予め設定された言葉しか話せないのだ。

 その為、苦笑いをする美紀を無視して話しを続ける王。


「そうだ。これをやろう。これは我が王宮に伝わるスキル『パワーアタック』だ。これは歴代の騎士長のみが継承を許されたスキルなのだ」


『スキル『パワーアタック』を獲得しました』


 スキル『パワーアタック』

 効果:30秒間攻撃力が1.5倍になる。

 獲得条件:任意イベントに出現するハンマーナイトを撃破。


「では私達はこれで失礼させて頂きます。最後に勇者様を街までご案内いたしましょう」

 女王がそう言うと美紀を街に転移させてくれた。


「疲れた……紅はもうログアウトしてそうね」

 そのまま美紀は癒しを求めてログアウトした。


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