第24話 初めてのお泊りはドキドキしないわけがない


 ――――

 ――――現実世界にて。


 ログアウトして蓮見は大きく背伸びをしてから部屋の電気を付ける。

「案外複製のスキル便利が良かったし、これなら明日は何とかなりそうだな」

 部屋の窓がゴンゴンと音を鳴らす。

 窓が割れる前にすぐに状況を確認しにいくと、ホウキを片手に持ち窓を開けろと隣の家の住人が無言で抗議していた。その表情はとても柔らかい。

 すぐに鍵と窓を開ける。


 ガラガラ


「っよと」

 身体の小ささを巧みに利用して部屋から部屋へ飛び移ってきた美紀。

 そのまま蓮見のベッドでうつぶせになり、枕に顔をうずめる。

 蓮見が美紀を見ると上は生地が薄く下着と綺麗な肌が透けて見えるキャミソールを着ており、下は白いジャージを履いている。髪は束ねていない。

「なら約束通りマッサージお願い」


 戸惑う蓮見。

「えっ!?」

 てっきり肩だけかと思っていたので驚いてしまった。


「いいじゃない少しくらいサービスしてくれても。って事で腰もおねがい」


「うっ、うん」

 返事をしてから今日一日頑張ってくれた美紀の為にマッサージをする。

 美紀の背中にまたがって座りまずは腰からマッサージをしていく。力を入れて固まった筋肉をほぐすようにして力を入れる蓮見。


 気持ちよさそうに声を出す美紀。

「うぅ~ん。いぃぃぃ~わぁぁぁ。気持ちいぃ~」


 幸せそうに表情を柔らかくする美紀を見て蓮見は可愛いなと思う。

 いつもこんな感じなら可愛げがあるのになと思いながらも感謝の気持ちを込めてマッサージをしていく。


「あっ蓮見、もっと右」

 少し手の位置をずらす。


「あぁ~ん、そこそこ。もっとおねがいぃ~」

 美紀の身体は全体的に柔らかそうに見えたが実際に触ってみると硬かった。

 多分VRMMOゲームのし過ぎで筋肉が凝っているのだろう。


「はぁ~気持ち良くて幸せだぁ~」

 力加減に気を付けながら蓮見はそのままマッサージを続けていく。


 マッサージをしていると美紀が枕から顔を少し上げて話しかけてくる。

「ねぇ蓮見から見て私って面倒くさい女だったりする?」


 否定するかのように即答する蓮見。

「そうでもないよ。もう慣れた」


 少し不安そうな声で質問する美紀。

「なら私と一緒にするゲームは楽しい?」


 声のトーンから美紀の不安に気が付いておきながら、あえて気が付いていない振りをする蓮見。

「あぁ。楽しくなかったら今頃止めてる」


 安堵したように返事をする美紀。

「そっかぁ」


「これでも美紀にはとても感謝してる。俺今が人生で一番楽しいから。あんなに生き生きと出来るゲームの世界って素晴らしいなと思っているよ。今ではもっと早く美紀とSNSだけじゃなくてゲームでも繋がっていたらって思えるほどにな」


 安心したのかひっそりと微笑む美紀。

「そっかぁ、なら良かった」


「ねぇ、蓮見。明日私達勝てるかな?」

「あぁ。当然だろ。美紀がいれば必ず勝てるさ。少なくとも俺はそう思っている」

「そうだね! 私がいれば絶対勝てるよね!」

「あぁ!」


 ようやく腰のマッサージが終わり、今度は女の子座りで態勢を起こした美紀の肩を揉んでいく。蓮見が思っていた通り腰だけでなく肩も凝っていた。少なくとも肩はゲームのやり過ぎだけでなく男の視線を釘付けるように大きい胸が大半の原因かと思われる。今日部屋に来てから美紀が動く度に揺れている胸をどうせなら揉みたいなーとか健全な男子高校生ならつい思ってしまう欲望を表に出さないように気を付けながらマッサージをしていく。


「そう言えばエリカって綺麗じゃない?」

「うん」

「やっぱり男の子ってエリカみたいにスレンダーで綺麗な女性が好きだったりするの?」

「確かにエリカさん綺麗だよな~。あ~ゆ~人は間違いなく男にモテる!」


 この瞬間、蓮見の直感が感じとる。

 よく見ないとわからない程度の変化だが美紀の機嫌が悪くなったと。


「蓮見はエリカの事どう思っているの? 見てる感じ結構仲良さそうだけど?」


「そうでもないと思うけど。エリカさん優しいし人当たりがいいからそう見えるだけだと思う。実際美紀が俺を連れてエリカさんの店に行くまで俺エリカさんと一回しか会ったことなかったし」


 正直に答える蓮見に更なる追い打ちをかけるようにして美紀が言う。

「ふぅ~ん。でもちゃっかりフレンド登録してたわよね? エリカが1番で私が2番だった」


「気が付いていたのか……」

「うん。フレンド登録する時にリストが(1)ってなってたから気になって蓮見が集中してパネルを操作してる時に後ろから覗き込んでリスト更新してる所を見て確認した」


 理由はよくわからないが周囲の空気が急に重たくなった。と感じる蓮見。


「あれは装備をオーダーメイドした時に時間が掛かるからって言われて……だなぁ……」

「本当にそれだけ?」

「あぁ」



「それとずっと気になっている事があるんだけどちょっと聞いてもいい?」

「うん」


 クルっと180度身体を回転させて向き合う形で笑みを向ける美紀。

 だけど目が笑っていない事に蓮見がすぐに気が付く。


 美紀が疑いの目を向けて言う。

「私の勘が当たってたらなんだけど、私がこの部屋に来てからチラチラ何処見てるの?」

「……?」

「だ・か・ら・さっきから何処をチラチラと見ているの?」


 思わず上半身を後ろに後退させ距離を取る蓮見だったが、蓮見を追い詰めるように身体を伸ばす美紀。

 言い逃れはどうやらできないらしい。

 紳士的な行動を意識していたが、本能には勝てないらしく、行動にはしっかりと出ておりその事に美紀は気が付いていたのだろう。


「……ごめん。てかその服装だと正直……目のやり場に困るってか見られて困るなら服着てくれ」

「う~ん。ちょっと女として意識して欲しいなと思ってた私も悪いから別に怒ってはないけど……チラチラは恥ずかしいから見るならもっとこおぉ……うまく見て欲しいと言うかね」


 てっきり怒られるかと思っていたがどうやら違ったらしい。

 蓮見は思わず安堵する。

 女として意識して欲しいと言われても逆にどうすればいいのか、わからない蓮見は今度は真剣に困った。

 彼女いない歴=年齢=童貞歴の蓮見に女心などわかるはずもないのだ。


 そもそも女心とはなんなのだ?

 そんな疑問が蓮見の頭の中で生まれる。


 ――この状況はマズい


 蓮見の頭がそう判断する。

 今は甘えん坊な一面があって可愛い。だが美紀が怒ったりして機嫌が悪くなると急に冷たくなったり酷いときにはゲーム内でも感じた鋭く冷たい視線を向けられる。言い方を変えればゴミを見るような目である。

 それだけは避けなくてはならない。


 ――ゴクリ


 意に反して二人の顔が急に近づいた事によって美紀の長い髪から微かに香るフローラルの匂いに反応して心臓の鼓動が高鳴る。


 ――ドクン、ドクン、ドクン


 それに呼応するかのように蓮見だけでなく美紀の顔も熱を帯び始める。

 今まで見た事がない美紀はとても可愛くて女の子らしかった。

「ねぇ今日は蓮見に甘えてもいい?」

 なので、迷わずコクりと頷く蓮見。

「……うん」


「ありがとう」


「良し! なら今日は一緒に寝よ?」

 そう言って蓮見の部屋の電気を消して、手を取り一緒にベッドに入る美紀。

「寝込みを襲ったり変な事はしないでね?」

「当たり前だ」

「だよね。蓮見にそんな度胸……ないよね」


 その一言に蓮見の心が大きな傷を負う。

 何より言い返したくて否定したくても、チキンの自覚がある蓮見は何も言えず。

「……そうだな」

 と返事した。


 今完全に男の尊厳と言うかプライドと言うかそう言った目には見えない何かが美紀によって破壊された蓮見はサッサと寝る事にした。

 これ以上起きていて心の傷をえぐられでもした日には数日立ち直れない自信しかなかった。


「美紀、お休み」

 そう言ってそそくさと一人夢の世界へ旅立つ蓮見。


「もぉ~冗談なのに。そうゆう所は昔からメンタル弱いね」

 小さい声で蓮見を起こさないように紡ぐ。


 蓮見の寝顔を見て。

「でも可愛い。いい加減早く私の気持ちに気付いてね」


 そのまま蓮見の横顔を見る美紀。

 蓮見の無防備状態となったほっぺに美紀の柔らかくて潤いがある唇がソッと触れた。


「唇じゃないけど、私の初めてあげる。絶対にその唇いつか奪ってあげるんだから。今のうちに覚悟しておきなさい。お休み」


 美紀は照れているのか頬をリンゴのように真っ赤に染めたまま静かに瞼を閉じた。


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