第20話 蓮見&美紀VS精霊 前編


 目的地に到着すると浅い湖があり、見たところ水が綺麗でひざ下半分程の深さだった。

 周囲を見渡せば見えるのは何処までも続く浅い湖。

 その中央付近に見える巨大な噴水。


「やっぱりここのボスまだ誰もクリアしてないわね」


 そして聞こえてきた声。

「はっ?」


「いや~手っ取り早くレベル上げるなら強い相手を倒すのが一番じゃん。ってもコイツめっちゃHPあるくせに1秒でHP1回復&硬いのよ。そこで紅の出番ってわけ!」

「まさか……あなた達がよく言われておられますKillヒットで倒せと?」

「そう。アイツの注意は私が引き付ける。多分紅のスピードじゃついていけないと思うから」


 そして槍を構える美紀。


 すると噴水から溢れる水の一部が意思を持っているかのように形を形成していく。

 しばらくすると半透明の人間の形をした精霊が現れる。


 美紀が真剣な表情になる。

「スキル『加速』、私のMPは気にしなくていいけど疲労が溜まれば反応速度が遅れる。だからその前にお願い」

「わかった。っても俺の攻撃で届くかが心配だな……」

「何の為に毒の矢を作ってもらったの? 毒の矢なら当たればとりあえずダメージを与えられる。少なくとも回復を遅らせる事が出来る」

「なるほど」


 蓮見が頷くと同時に精霊が水で作った半透明の短刀と盾を持って突撃してくる。

 美紀はその動きを完全に見切り、半身になって回避し、すぐさま今は両手で持っている槍を使い身体を貫く。

 と同時に蓮見の一撃も決まる。


 半透明の精霊を毒状態にする。

 本来であれば少しずつHPが減っていくはずだが、精霊が持つスキル自動回復のせいでHP回復と毒のHP減少がお互いの効果を相殺し合う。

 盾を使い槍の攻撃を受け流しながら反撃してくる精霊。

 美紀はそれを己の身体能力だけで躱し、槍を右手で持ち、腰にある短剣ですれ違い様に素早く斬ることで対応する。


 蓮見の援護射撃は全て読まれているのか、美紀と戦いながらでも精霊は全て躱していた。

 精霊の弱点は人間と同じ心臓部と頭部なのだが、そもそも当たらないので苦戦を強いられていた。そんな蓮見を護るように美紀は自分を囮にしながらも戦う。


「悪いけど紅の所には行かせない。スキル『連撃』!」

 槍が白いエフェクトを放ち光輝く。

 美紀の槍が7連続で精霊を素早く攻撃するが致命傷にはならず身体を少し傷つける結果となった。

 精霊の動きを観察しながら立ち回る美紀にダメージは入らない。

 が分が悪いのはやはり美紀だった。

 噴水の水が湖の水の中を通る事によって精霊の体内に侵入していく。

 精霊が美紀の槍で受けたダメージを回復する。


 戦いに集中している美紀はそのことに気付いていなかったが遠目から見ていた蓮見はその事実に気付く。だけど、それをどうにかする手段を持っていなかった。

 教えるには距離があり過ぎる。かと言って下手に出ていけば狙われてしまう。

 精霊は外部と内部の両方で傷を癒す事が出来る。


 これがトッププレイヤー達を相手にしても負けなかった理由。

 基本的にトッププレイヤーはその名に恥じぬ実力を持っており第一回イベントが終わるまで多くの者がソロプレイヤーだった。だから気付かなかった事実。


 美紀は精霊の動きが元に戻ったと感じていた。

 周りから見たら変化がないようにしか見えないが傷を受けた直後と今では明らかに違った。身体を見れば切り傷が消えている事から傷を負えば一時的に弱体化すると考える。今まで数々のVRMMOゲームで結果を残してきた美紀だからそう思える程度の変化。


「間違いない。コイツダメージ耐性が限りなく低い。それをこの超回復とも呼べる現象で補っているのね。それであの盾は前回と同じくどんな攻撃を通さない鉄壁。やっぱり手数が多いとその盾じゃ防げなくなるのか」


 冷静に状況を分析していく美紀。


「スキル『ライトニング』!」

 槍が白いエフェクトを放ち鋭い突きとは別に電撃を精霊に浴びせる。

 スキル『ライトニング』の付加効果、感電により電気が全身に流れ精霊の動きが鈍くなる。それでもまだ足りない。


「スキル『ライトニング』!」

 通常攻撃と一緒に連続で『ライトニング』を発動して精霊の動きを徐々に遅くしていく。

 精霊のHPは徐々に減っていくがまだ8割残っている。

 ここで手を緩めれば一瞬でHPを回復されるだろう。

 動きが鈍った精霊に対してようやく少しづつ当たるようになってきた蓮見の毒の矢。

 感電と毒のダブルコンボがようやく精霊を追い詰める一手となる。


「スキル『加速』『連撃』!」

 スキル『加速』の効果が切れると同時にすぐに再発動し7連続の鋭い突きで精霊の身体を突いていく美紀。

 その時美紀の耳に蓮見の声が聞こえてくる。


「すまない。今から30秒だけ俺に時間をくれ! そいつを倒す」

「わかった!!!」

 蓮見の言葉に頷く。


 恐らく一撃で倒せる見込みでもついたのだろう。


「はぁぁぁぁぁ!!!」

 精霊の注意が蓮見に向かないように最後の力を振り絞り攻撃の頻度を上げる美紀。

 不慣れな水の中での戦闘で口で息するまでに呼吸が乱れていたがここが正念場だと自分に言い聞かせる。遠くからは何て言っているかハッキリとはわからないが恐らく詠唱をしている蓮見の声が何となく聞こえる。


 その時、精霊の動きが急に変わる。


 HPゲージが七割を切ったのがどうやらスイッチとなったらしい。

 美紀の直感が反応する。これは「マズい!!!」と。

 上空に出現した青い魔法陣。

 今まで足元にあった水の深さが半分になり、沢山の水が魔法陣に吸い込まれるように消えていく。


 美紀が精霊を見ると視線の先には蓮見がいた。


「まさか!?」

 魔法陣に吸い込まれた水が形状変化して精霊が持っている短刀の形に次々と変化し空中に出現する。

 直後、美紀の嫌な予感があたる。


 短刀の形をした水が青いエフェクトを纏いながら勢いよく一斉に放たれる。

 美紀の額に流れる汗。

 それが証明していることは一つ。

 蓮見が死ぬ。あの攻撃速度では蓮見のAGIでは躱せない。

 頭が瞬時に反応する。


 視線を元に戻せば精霊が持っている短刀が目の前まで迫って来ていた。

 今から槍を全力で投げれば蓮見は助けられる。

 だけどその場合短刀で戦わなければならなくなる。

 そうなれば普段サブウェポンとして使っていない為、攻撃の手数が減りHPゲージを回復されてしまうだろう。

 そうなればもう体力的にも勝てる見込みがなくなる。

 だけどそれは蓮見がいなくなっても同じだ。


 焦りが思考停止を呼びかける。

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