第13話 初めてのキス私じゃ不満ですか!?


 ――――。

 ――夜。


 疲れたのでログアウトしてベッドから起き上がる蓮見。

 すると部屋の窓がホウキの棒部分でゴンゴンと叩かれていた。

 とりあえず何事かと思い窓の外を確認する蓮見。

 するとそこに見えたのはホウキを使って蓮見の部屋の窓を叩いている美紀だった。


「誰がノック感覚で窓を叩いていいと言った。割れたらどうする!?」

 勢いよく窓を開けて叫ぶ。


 すると美紀が窓から身を乗り出してジャンプ。

 そのまま蓮見の部屋に来る。


「そんなに叫んだらご近所迷惑だよ?」

「……あっ、あぁそうだな」

「それよりレベル上げ頑張ってる?」

 そのまま蓮見の隣に来てベッドに座る美紀。


 美紀の髪からは甘くて良い香りがした。

 髪も少し濡れている所からお風呂あがりなのだろう。

 蓮見の鼓動が大きくなる。


「まぁ、ぼちぼちかな」

「そっかぁ。なら良かった」

「どうゆう意味?」

「ん? それはね、今まで蓮見と同じ事をして時間を共有するって事はなかったでしょ? でも今こうして蓮見が私の為に頑張ってくれてる、そう思えるとなんだか嬉しいなって」

「別に美紀のためじゃ……」

「こら! そこは嘘でもお前のためって言って欲しいなぁーとか思ってるんだけどなぁ~」

 そう言って蓮見の口を右手の人差し指を当てて動きを封じる美紀。

 女の子の細い指先は暖かった。

「もし嫌なら今度は私の唇で塞ぐけどいいの?」



「…………」



 急なドキドキイベントの発生に目をパチパチさせて身体が硬直する蓮見。

 そんな蓮見をからかうように顔を近づけてくる美紀。



 二人の視線が重なり合う。



 そして二人の鼻が触れ合う距離まで顔が近づく。

「初めてのキスの相手が私じゃ不満?」


 蓮見の頭がこの時思考を停止した。


 女の子から今までそんな事を言われた事がない年齢=彼女いない歴の男にとってその言葉は凄まじい破壊力を秘めていた。正直美紀は蓮見から見て可愛い部類に入る。今も理性を正常に保っているのが難しくなるぐらいに。


 美紀の唇が蓮見の耳元に行く。

「バぁーカ。半分冗談に決まってるでしょ」


 そして身体を元の場所に戻してクスクスと笑う美紀。

 つい本気にしてしまった蓮見の顔は赤くなっていた。


「……人をからかうなよな」


「いいじゃん。どうせ幼馴染なんだし。ちょっとぐらい行き過ぎてもね」

「そんな事ばかり言っていると、いつか後悔するぞ」


「別にいいよ。蓮見となら……」

 手をモジモジさせながらチラチラと視線を向けてくる美紀。


「ばか。そんなに自分を安売りするな。俺なんかじゃなくてそう言った男を惑わす言葉は好きな人とか気になる人に言ってやれ」


 急に頬を膨らませる美紀。

「フゥ~ンだ。そんな事ばっかり言ってるから女の子にモテないんだよ!」


「なんだと!?」

「なによ!?」



 今度は睨み合う二人。

 そのまますぐにソッポを向く二人。



「ねぇ、はすみ?」

「なんだよ?」


 少し間を開けて。


「からかってゴメンね。ちょっと蓮見に悪戯したくなっちゃったからつい……」

「俺も言い過ぎたよ。ごめん」

「うん。それで蓮見に聞きたいんだけどゲームの提示板はちゃんと見てる?」

「あっまぁ。今日はちゃんとスキル板とイベント告知板を見た」

「……そっかぁ。まぁ全部じゃないにしろ見る癖ついたなら良かった」

「おう。これも美紀のおかげだよ。本当にありがとう」


 ニコニコして可愛い笑みを蓮見に向ける美紀。

「全然いいよ。お礼は今度してもらうから」


「おいタダじゃねぇのかよ!?」


 嬉しそうにクスクスと笑う美紀が言う。

「当然! それとも私とのデートは嫌?」


「デート?」

「そう、デート。ってもゲームの中でね」

「……あぁそうゆう事か」

「もしかしてリアルでって期待した?」

「……少し」

「蓮見素直でかわいいね。ならまたお話ししようね。お休み」

「あぁ、お休み」


 そして小悪魔美紀は窓から出て自分の家に帰っていた。

 蓮見もお風呂に入って寝る事にする。

 明日からイベント開始日までの2日間で少しでも強くならないといけないのだ。



 時間はまだある。

 ちょうど春休み期間なので学校は休み。

 なのでイベント開始のタイミングとしては良かった。



 ――――。

 ――その直後。ギルド前にある憩いの場。

 ある新規スレの提示板に書かれていた内容の一部。

 そしてスマートフォンから公式サイトにアクセスしギルド提示板を見ていた美紀。



 157 名前:???

 東の魔の森で今日歌ってるやついたw


 158 名前:???

 は?


 159 名前:???

 そいつアイスゴーレム一撃で倒したwww

 ちなみにクリティカルヒット(KILLヒット)


 160 名前:綾香

 なにそれ

 一撃が本当ならトッププレイヤークラス


 161 名前:???

 名前は?


 162 名前:???

 わからん

 赤を中心とした防具で弓使いだった


 163 名前:???

 俺もこの前見た。

 もし同じ奴ならその時は西の魔の森でゴーレム2体相手に遊んで最後一撃で倒してた

 遠目からだとクリティカルの場所が見えてるようにも見えた


 164 名前:???

 もしかしてそいつ【神眼の弓兵】?←勝手に俺が名付けた


 そいつこの前は山火事起こしてたぞ


 165 名前:綾香

 今後はそれでいこう!


 >164

 マジ?


 166 名前:エリカ

 宝くじ1等当てた『紅』なら私知ってる

 フレンド登録したから

 

 その時、西の魔の森に出るゴーレムは初期装備の時に一度倒したって言ってた


 見た感じ……

 クリティカルヒットが出やすいようにステの重点おいてる気がする


 167 名前:???

 >165綾香


 マジ


 >166エリカ

 

 ちなみにどんな奴?

 

 168 名前:エリカ

 一言で言うなら素直で可愛い子

 あと面白い


 169 名前:???

 また情報あったらよろしく!


 170 名前:エリカ

 OK



 勿論提示板でこんなやり取りが日々行われている事を蓮見が知るはずもなかった。

 美紀は嬉しかった。

 蓮見が皆に注目されてその実力を認めて貰えていることが。

 そして何より期待していた。

 自分を楽しませてくれる強敵と書いて友と呼べるライバルが出来た事を。

「やっぱ蓮見最高。はぁ~早く一緒にゲームしたいな~」

 そのまま部屋の電気を消し、深い眠りに入る美紀。

 きっと幸せな夢をこの後見るのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る