第6話 勘違い男は億万長者!?

 ――――。

 ――お昼過ぎ。


「さていい加減、この装備も何とかしないといけないな。HPが毎回赤までいくのは良くないしな。なによりアイツの前で初期装備のままだと笑い者にされる気しかしないからな……」

 蓮見の言うアイツとは幼馴染の事で明日には家族旅行から帰ってくると母から聞いている。VRMMOにおいて幼馴染はかなりの実力者で過去に大会でも優勝や準優勝と何度もタイトルを総ナメしているらしい。これは母からさっきお昼ご飯を食べている時に聞いた。


 それはさて置き、


 ――正直出遅れた感はやはりあるが楽しい。

 ――だが、バカにはされたくない。


 と言った感情が蓮見の心の中ではあった。


 ギルドの前にある憩いの場で周りに視線を泳がせると、初期装備オンリーのプレイヤーは少なかった。


「流石に6730ゴールドじゃ装備一式は無理だよな……」


 何か妙案がないか悩む蓮見。

 周りからしたら初期装備の初心者が腕を組み頭を傾けて、悩んでいるようにしか見えない。

 なので別にこの姿勢に違和感はない。



 はずだが……。



 周りの視線が刺さるように痛いのは何故だろう……。

 だがここでも考え事に夢中の蓮見は周りの視線には一切気付かなかった。

 とりあえずここでは目を瞑って考え事をしているからということにしておこう。


 耳を傾ければ。


「あれ? あの子じゃない。魔の森でゴーレム二体を倒した男の子は」

「マジか……。あんな装備で?」

「間違いないよ。だってトッププレイヤーの綾香さんが言ってたもん」

「…………」

「…………」

「…………」

「このゲームβ版にはなかった何かがあるな……」

「……ありそう」

「うん」


 と言った会話があちらこちらから聞こえてくるのだが当の本人には聞こえなかった。


 妙案が浮かばず閉じていた目を開けると視界にある物が入って来た。

 そして、悪い顔をする。


「ふむふむ。宝くじか……悪くない」


 早速宝くじ売り場に行く。


 一等 100万ゴールド 当選率0.1%

 二等 50万ゴールド  当選率0.5%

 三等 10万ゴールド  当選率1%


 1口 2000ゴールド と書かれいた。

 

 内容を見て良くて3回しかチャンスがない。

 と思い一瞬どうするか躊躇う。

 がどうせ6730ゴールドではないものと変わらないと思い勝負する事にする。


「すみませーん。これで3口お願いします」

 早速お店の人に声をかける蓮見。


 お店の人は笑顔で説明してくれる。

 説明されるがまま指示に従う蓮見。


「なら後はこの水晶に手をかざしなさい。それで水晶に文字が出現すれば当たり、逆に水晶が割れればハズレだよ」


「ありがとうございます」

 そう言って3つの水晶を受け取る蓮見。

 透明の水晶3つを近くにあったテーブルに置き早速手をかざす。




 すると三秒ぐらい経ったタイミングで水晶が一つ割れた。


 ”パリン”


「あらまぁ……外れたか。まぁそんなものだよな実際」

 そしてもう一つ。


 ”パリン”


「むっ。何かムカつくな……」

 割れた水晶を見て言う蓮見。

 周りから向けられた「そう簡単に当たれば苦労しないから」と言いたげな視線。

 それは馬鹿にした目線ではなく何処か同情を含んだ視線が大半だった。



「頼むぞ最後。せめて3等来い!」

 力強く念じながら水晶に手をかざす。


 …………。


 …………?。


 今度は反応がなく水晶が割れない。


「んっ?」

 とその時、水晶に文字が出現する。


 水晶を覗き込みながら文字を読む。

「おめ……でとう?」


 水晶が勢いよく割れる。

 そこから水のように溢れ出るお金。


「えっ?」

 戸惑う蓮見。


 同じく戸惑う観客。

「うそだろ!?」


 しばらくすると、

「「「「「「えぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!!!!!!」」」」」」

 皆の思いが一つになった瞬間だった。


 蓮見が戸惑っていると目の前に透明色のパネルが出現する。



『おめでとうございます! 100万ゴールド獲得です!!!!」

 祝福するラッパの音と共に聞こえたアナウンス。



 ドヤ顔で周囲を見渡せば、全員の視線がこちらに向いており全員が驚いた顔をしていた。僅かゲームを初めて2日で100万ゴールドを手にした初心者。噂になるのに時間は掛からなかった。噂は光の速さで提示版に書き込まれ一躍有名人となった。だが、提示版を見ない蓮見がその事実に気付く事はなかった。

 事実今も凄いスピードで更新されているわけであるが……。


 そして蓮見の所持金が100万730ゴールドになる。


「よっしゃー!!! 億万長者じゃーーー!!!!」

 その言葉に蓮見に向けれれていた視線が疑問の視線に変わる。

 つい嬉しさのあまり現実世界との区別がつかなくなった蓮見は大声で間違った事を叫んでしまった。が、興奮しているせいかその事実に気付かない蓮見はスキップをしながらその場を立ち去る。



 次の目的地は鍛冶屋で決定した。

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