第5話 俺の全力で全速ダッシュ不発

 ――次の日。

 なんだかんだ面白いなと言った気持ちにさせられた蓮見は

『YOUR FANTASY MEMORY』にログインする。


「そうだな……今日は昨日よりもっと奥に行ってみるか」

 昨日死に掛けた森に早速足を向ける蓮見。

 この時蓮見の頭の中は効率よくレベル上げ、つまり昨日のような展開があるなら、ずばり魔の森と思いこんでいるわけだが、そんな偶然そうそう起きるわけがない……。


 もしガーゴイルに捕まってそんな事が出来たら間違いなく遠距離攻撃が可能なプレイヤーの間で今頃有名になっているはずである。それがないと言う事はつまり実際は存在しない技で昨日のは偶然起きただけのイベント(バグ)の一種的な物か何かと思う事が大事なわけであるが……。


「昨日は二時間前後でレベルが五上がったし……」

 頭の中で何かいい方法はないかと思考を巡らせながらも魔の森へと向かって歩く蓮見。


 周りに視線を向ければ、『あいつ初期装備だぞ……』『大丈夫か……?』『てか止めなくていいのか』と言った蓮見を心配そうに見るプレイヤーの視線と声がひそひそと向けられていた。

 が考え事をしている蓮見がそれに気が付く事は残念ながらなかった。


 そのまま魔の森それも人気が少ない奥の方まで来てしまった蓮見。

「あれ? 考え事をしている間にまた見た事がない所まで来てしまった……」


 結局どうすれば効率よくレベル上げができるかの答えが出ない。


 ガサガサ


「んっ? 誰かいるのか……おーい、大丈夫か!?」


 魔の森の奥深くに人がいるわけなどなく、そこにいるのはモンスターなわけで。

 沢山の木々の隙間から蓮見の声に答えるように突然姿を見せた人間ではなく巨大なゴーレムに蓮見はつい言葉を失う。


 ……え? なにあれ?


「…………」

 全長15メートル、色は茶色、レンガを組み合わせたような模様をしているゴーレムの赤い目は蓮見に向けられている。


「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 突然湧き上がるように出てきた叫び声。


 後ろに振り返りクラウチングスタートの姿勢に入る蓮見。


「俺を舐めるなぁ! ゴーレム覚悟しろ、これが俺の全力で全速ダッシュだぁーーーーーーーーー!!!!」


 そして蓮見が全速力で逃げていると、もう一体同じゴーレムが行き場をなくすように姿を見せる。


 すぐに急ブレーキをかけて止まる蓮見。

「おいぃぃぃぃ!? どうなってるんだ???」


 不意打ちの連発に心臓の鼓動が大きくなる。



 ドクン、ドクン、ドクン



「おいおいどうするんだ……。てかこのゲーム……ゲームバランス悪すぎだろぉぉぉぉ!!! そもそもこのモンスターは初心者向けの森じゃねぇだろ!!!」


 何とかゲームに文句を言う事で気を紛らわせようと必死な蓮見。

 だが、前と後ろにいるゴーレム二体は徐々に蓮見を挟みこむようにして近づいてくる。


 本来は中級者は中級者でも上級者クラスに近い中級者パーティーが来る場所なわけでゴーレムは決して楽して勝てる相手でもなければ当然弱い敵でもない。

 現在のトッププレイヤー達でもレベルは25~27ぐらいだと言われている。


 そんな少し考えれば分かることがわからない蓮見は弓を手に取り構える。

 そして矢を放つ。


 構えを取ると同時に出現した矢はすぐに蓮見の狙い通りゴーレムの身体に向かって飛んでいくがゴーレムのVITが高すぎるのか蓮見の攻撃力がなさすぎるのか矢が跳ね返されてしまった。


「……きいてねぇ。てか身体にあたると同時に反射して何処かいったぞ……」


 それもそのはず。

 ゴーレムと表示された文字の横にはLv17と表記されているわけで、

 そもそもステータスもそれ相応なわけで今の蓮見からしたら強敵である。


 しかし最早逃げられる雰囲気でもないのでやる事は一つしかなかった。

「えっと……確か昨日の感じではスキル名を言えばスキル発動だったよな……『イーグルアロー』」


 ゴーレムの巨体の中心部に黄色い点が出現する。

 点の大きさは昨日よりも大きく直径3センチ程度だった。


 だがそもそもウルフと比べると何十倍もデカい相手に点の大きさが少し大きくなった程度で素直にやったー! と喜べるわけがなく……。

「クソッ。そんだけデカいなら弱点もう少し大きくてもいいだろ……」

 と本音が口から洩れてしまった。


 幸いにもゴーレムの動きは遅く、蓮見はギリギリで躱す事が出来る。

 と言っても時に地を這い、時にゴーレムの攻撃の風圧で吹き飛ばされてと、とても誰かに見せられるような美しい戦い方ではない。


「調子にのるなよ……ゴーレム!」

 蓮見は何とか相手の隙をついて攻撃をする。


 狙うは黄色い点ただ一点。

 ただ中々上手くいかない。

 態勢が崩された状態での射撃はかなり難しく、システム補助が合っても思った所に飛んでいってくれない。


 そんなグダグダな戦闘が30分程続く。


 蓮見の緑色のHPバーは気付けば半分以下になり黄色になっていた。

 疲れでゴーレムの攻撃が身体を掠め始めたためである。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

 息が苦しく呼吸が乱れる。


「だけど何となくもうコツは掴めた」

 そう言って構える蓮見。


 二体のゴーレムの動きに集中してギリギリで攻撃を躱し射撃。

 射撃の精度はこの短時間で急成長し、蓮見の一撃がようやく当たる。


 そしてようやくゴーレムにダメージを与える事に成功した。

「よっしゃー!!!」

 あまりの嬉しさについガッツポーズ!!!


「っても今の一撃で一割か……つまり十回当てないと倒せないのか」


 まだまだ先は遠かったが

 ようやく勝利の光が見えてきた蓮見はここから気合いで頑張る。


 徐々に減っていく蓮見のHPとゴーレムのHP。

 蓮見のHPが残り2割りになったタイミングで、ゴーレムの一体のHPがなくなり光の粒子となって消える。


『スキルを獲得しました。レベルが10に上がりました』


 スキルをゲットした喜びそしてレベルアップした喜びをかみしめたいが

 今はもう一体のゴーレムを倒す事に集中する。


 ここまで来て負けるのは絶対に嫌だった。

 蓮見の負けず嫌いな一面が表に出た瞬間だった。



 ――二十分後。


「くらえ!!!」



 そして。

 もう一体のゴーレムも倒した。


『スキルを獲得しました。レベルが13に上がりました』


 早速今回手に入れたスキルとレベルアップによるステータスポイントの確認を纏めてする。

「どれどれ」



 スキル『火事場の俊足』

 効果:HPが減少すればするほど移動速度が向上。HP減少時に自動発動。

 獲得条件:敵の攻撃を一定範囲内で一定回数回避した時に0.05%で獲得。


 スキル『絶対貫通』

 効果:敵、魔法、盾etc関係なくクリティカル時防御力を無視して敵にダメージを与える。自動発動。

 獲得条件:自身STRより敵のVITが10倍以上離れており、敵に通常攻撃のクリティカルヒットだけで勝つ。


 スキル『レクイエム』

 効果:MP消費量によって威力が変わる。

    『二割:二倍、三割:三倍、……、十割:十倍』

    発動時に任意でMP消費量を決める事ができる。

 状態効果:発火 +5~+25(MP消費量によって変動)

 獲得条件:MPを使わずにレベルが十以上離れた敵を倒す。

      ただし自身のVIT20未満状態で二体討伐が条件。



 不気味な笑みで蓮見が言う。

「『絶対貫通』と『レクイエム』これは……もしや使えるかもしれない」

 蓮見の悪知恵が働く。


 一体何を考えているのかは本人しかわからないが、良くない事を考えていることだけは確かだった。これがいつ誰にどう使われるのかと思うと少し不安が残る。


「って事はステータスポイントはDEXに8、CRIに4にしとくか」


 一人嬉しそうにステータス画面を見て納得する蓮見。


「こうやって常にレベルが高いモンスターだけを倒していけばレベルがほぼ毎回あがるのか……。最近のVRMMOゲームって良く出来ているんだな……」


 どうやら間違った方向に思考が暴走を始めたらしい。

 いや、まぁ、事実そうなのだが……。

 普通は段階を踏んでとかあるわけで……。


「お昼ご飯食べたいし一旦ログアウトするか」

 そう言ってログアウトする蓮見。

 偶然にも通りかかったパーティーが戦闘の一部始終を見ていたとは知らずに……。



 ――――。

 ――同時刻。蓮見がログアウトして。


 森の茂みに隠れていた男女のパーティーが姿を見せる。

 男が驚きに満ちた顔で、女の顔を見ながら言う。

 その額には汗があり、森に差し込む太陽の光をうけてキラキラと光っていた。

「あいつ何者だ……?」 

「さぁ?」

「ゴーレム一人で倒したぞ……それも初期装備で」

「化け物ね。もしかして他のVRMMOで優勝経験とかある人かもよ?」

「……なるほど。それなら納得だな」

 男が一人苦笑いをする。

 それに続くように女も苦笑い。

「それにしてもあんな初心者がまだいたとは……」

「そうね。いつか貴方の前に敵として現れるかもしれないわね」

「あはは……勘弁して欲しいね」

「ところで今貴方のレベルって幾つだっけ?」

「先日見た槍使いの美少女は29。その槍使いと対等に戦っていた黒の剣士も29。そいつらには一歩届かない28だよ」

「そう言いつつあの二人とも対等に戦っていたのは何処の誰だっけ?」

「……さぁな。とりあえず俺達はスキル集めするぞ?」

「ふふっ。そうね」


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