僕は1人

巽 彼方

僕は1人

 僕は漠然とさみしさを感じる。

 何不自由ない生活は送れているし、困ったことがあるわけでもないのに。


 僕は今何を目的に生きていけばいいのか分からない。

 将来に特別な不安や、やりたいことがないわけでもないのに。



 何か始めようと思えばやれる時間はある。

 お金持ちというわけではないが、物事を始めるのに使えるお金はそれ相応にある。

 怪我や持病があるわけでもないので、自由に体を動かすことだってできる。


 それなのに僕は何も始めようとはしないし、何かを終えることもない。

 ただただやってくる目の前のことを、ただただこなすだけの日々だ。




 朝起きて支度を始める。

 特に外へ出かける用はない。

 ないというよりは、今は自粛しないといけないという方が正しい。



 今日の朝食はご飯にしようか?

 それともパンか?


 正直どうでもいい。

 でも、どうでもいいことほど僕は悩んでしまう。


 片方しかなかったら迷わずに済むのに……



 支度を終え自室のパソコンとにらめっこ。

 時間が来て作業を始める。


 手を動かしているときだけは何も考えずにいられるので僕は好きだ。

 黙々と手を動かす。

 黙々と……



 しかしその作業にも飽きて、僕はスマホを片手にサーフィンを始める。

 Twitterを開き、推しの茜がキャスをやっていないかチェックする。


 昼間からやるはずないか……

 昼間どころか最近夜もやらないんだよね。

 彼女の声が聞きたい。



 そろそろ休憩しているのにも罪悪感を感じ始め作業に戻る。



 僕の日常はこの繰り返し。

 平日はこれを繰り返し、休日になったらパソコンがゲーム機や本に変わるだけ。




 1人じゃないときは幾分寂しさが紛れる。


 ETERNALという名で活動している学生がキャスをやっていたので、僕は少し躊躇ちゅうちょしたが悩んだ末コラボした。

 彼はそこそこ人気のある人物だ。

 彼の周りには人が集まる。


 最初は彼との共通の話題で盛り上がっていたが、他にもコラボする人が増えたことで、僕には興味のない話題になった。


 僕はそっと退出した。

 けれど話題はそのまま継続している。

 誰も僕がいなくなったからといって何も思わないし、何も変わらない。




 慣れた手つきで茜の配信を探す。

 やはり今日もやっていないようだ……。






 僕は再び1人になった。






 僕は1人なのだ。

 僕は1人、僕は1人、僕は1人。

 1人1人1人1人1人。









 ………………あれ?

 僕は1人じゃなかった。














 君だよ。













 ここまで読んでくれた君。

 君は僕と一緒にいてくれるよね?





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