【ショート・ショート集】鏡の向こう、向こうのあたし
日和かや
鏡の向こう、向こうのあたし
「自分は笑ってないのに鏡の中の自分が笑ってたら、もうすぐ死ぬんだって」
昼休みの教室で、お弁当を食べ終わったあたしたち女子グループは、怪談話の類いで盛り上がっていた。
真偽不明の迷信や噂話など、自分達の知っている話をあれこれとそれらしく話している。
「えー。何それ。嘘っぽーい」
「ホントだって!うちのお姉ちゃんの友達がさ…」
「もー無理無理!!鏡見れなくなるし夜眠れなくなる!」
「もう
「鏡が出てくる怖い話って結構あるよね」
「なんかさ、鏡はあの世と繋がってるらしいよ」
「あたしがママから聞いたのは、夜中の0時に合わせ鏡をすると悪魔が出てくるっていうの」
それにはさすがに「ありえなーい」と女の子は笑っていたけど、あたしはどうにも本気では笑えなかった。
うちに帰ると部屋の鏡に布を被せて、歯を磨いている時も、お風呂に入っている時も、鏡を見ないように過ごした。
芽育たちは気にしてないようだったけど、あの布を被せた鏡の隙間から何かがぬっと出てくるんじゃないかと、なかなか寝つけなかった。
次の日も朝は鏡を見ないで髪をセットして、学校のトイレにも行かなかった。
そんなあたしの様子に、昨日一緒に怪談話をしていた女の子たちはくすくすと笑っていた。
放課後、今日はこれから芽育と2人で彼女のお姉さんがバイトしているスイーツのお店へ行く約束をして、一緒に教室を出た。
廊下を歩いていると、突然芽育は驚いたようにあたし越しに何かを指差した。
「楓!あれ。あれ見て!」
慌てる彼女に釣られるようにそちらを向くと、そこにあったのは被服室の姿見。
映っている、あたしと芽育。
「ほーら。何ともないでしょ。気にすることないんだよ」
姿見の中にいたのは、悪戯が成功して意地悪く笑う芽育と、困惑した面持ちのあたし、ありのままのあたしたちの姿だった。
「もう」
あたしは拗ねて見せたけど、荒療治をしてくれた芽育のおかげでちょっとほっとしたのも事実。
帰ったら鏡の布を取り払おうかな。
階段では、演劇部の人たちが背景に使う大道具や小道具なんかを多目的室へと運んでいる最中で、あたしたちは壁側へと押しやられてしまった。
ぶつかって足を踏み外しかけたけど、気が付かなかったらしく謝ってもくれないから、芽育が代わりに大声で文句を言ってくれた。
ふと、床に何かが落ちているのを見つけた。
「すいませんでしたー」
後ろから演劇部の人が謝ってくれている声がする。
振り返って「いえ」とだけ答えて、目の前の落とし物を拾おうとした。
多分小道具のひとつなんだろう。
丸いそれには、宝石みたいな飾りが付いている。
「おいっ。こら手を離すな」
頭上で声がする。
手に取ってみれば、それは落ちてひび割れた鏡だった。
「――危ない!よけろ!!」
聞こえてくる切羽詰まった声。
戸惑うあたしと、鏡の中の、今までしたこともないような満面の笑みのあたし。
楽しくて楽しくてたまらないといった感じで笑ってるあたし。
――あたし、 笑ってな い の に
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