投稿その11

 私たちの高校は土日がお休み。なので週末はちょっと気合いが入った「匂わせ投稿」をすることができる。

 そこでこの週末は“料理”をテーマに、屋外で撮影した「匂わせインスタ」を投稿してみようと思う。


 それからいろいろあって、日曜の夜に投稿したのは、庭の芝生の上にオシャレなシートを敷いて、綺麗に料理を並べた写真。

「ピクニック行った。ちょっと作りすぎちゃった。#おなかいっぱい」

 実はこれ、イオンのお惣菜売り場で買ったおかずを、スリーコインズの食器に並べただけなんだけどね。


 【匂わせポイントその11】休日は仕込みが大変な「野外匂わせ」も投稿できる!


 美味しそうな料理が並んでいる中に、取り皿とドリンクがそれぞれ2つずつ。

 撮影する角度をちょっと工夫して、いかにも二人でピクニックに来てるような匂わせ。


 これって匂わせ界のメインストリーム、王道中の王道テクニックだよね。

 外でデートする“アクティブな私”も匂わせられるしね~。

 さらに加えて“料理上手”もアピール!

 (お惣菜を並べただけなのを料理と言うか!冒涜だ!)

 でもよーく見たら、かなり影が伸び気味なんだよ。日が落ちる前にギリギリ間に合ったって感じ。


 もうおわかりかと思いますが、この土日、これの準備と撮影だけで潰れちゃいました。

 でもこれだけ気合いが入ったインスタを見たら、真純くんもきっと「あ~いつか一緒にピクニック行って満腹ハッピーになりたいな~」って思ってくれるはず!


 翌朝、さっそく真純くんに聞いてみた。

「インスタ見た?」

「うん見たよ。料理が美味しそうだった」

「えへへ、ありがとう」

「あの料理さ、二人分あったよね?」

「そうなの~気付いてくれた?」

 お、今日の真純くん、簡単に匂わせに引っかかってくれたぞ。さすが王道!食いつきが違うね!

「うん。それでさ、あの写真見て思ったんだけど……」

 おっ!真純くんがちょっと言いづらそうにしている。なんだなんだ~もしかして彼氏の存在に気付いちゃったか~?気になるか~?YOU早く言ってスッキリしちゃいなよ!

「香織さんって、もしかして……食いしん坊さん?」

「ノーッ!!」

 そっち~!?そっち行っちゃダメだよ!違うの!誰かと二人で行ったと思ってよ!

「でも香織さん、あんなに食べてるのに、そのスタイルが保てるのってすごいね」

「えっ?「そのスタイル」って?」

「背が高くて髪も長くてスラッとしてて、モデルさんみたいなスタイルのことだよ」

「えっ、そ、そうかな~」

 でへへ~。直球で褒められたよ。ニヤニヤ顔になっちゃうなぁ。

 するとここで、真純くんがグッと体を乗り出してきた。

「ところで香織さん」

「なになに?どうしたの?」

 いつになく真剣な顔してどうしちゃったの?

「あの写真ってどこで撮影したの?」

「え、えっと……その……あんまり知られてない公園?みたいな?」

 しまった!どこで撮影したかまで考えていなかった!

「やっぱりそうだったんだ!香織さんはその公園、よく行くの?」

「う、うん、まあね、しばしば?ぼちぼち?まあまあね。癒やされるよ。オススメだよ」

「オススメかぁ。ボク公園が好きだから、いろいろな公園に行って本を読んでるんだけど……」

「ま、まずい……じゃなくて、そうなの?」

「香織さんのオススメっていうなら、よっぽどいい公園なんだろうな~」

 ちょっと待って!この流れヤバいかも!

「ち、ちなみに真純くんって、どのくらいのレベルで公園が好きなの?名人レベル?」

「そんなんじゃないけど、近くの市内の公園はほとんど行ったよ。高校生のうちに県内の公園は全部制覇しようと思ってるんだ」

「す、すごいレベルだね……」

「でさ香織さん、あれどこの公園なの?今度行きたいから教えて欲しいな」

 やっぱりきた―!!

「えっと……えっと……その……」

 真純くんがワクワクしながら私を見つめている。ど、どうしよう……。

「あ、そうだ!」

 人生最大のピンチに直面した私は、とっさにひらめいた!匂わせの神様ありがとう!

「名前よく知らないからスマホで検索してみるね」

 そしてスマホを操作するフリをしてから、棒読みでこう答えた。

「あー、あの公園、昨日で閉園になっちゃったみたーい。残念だなー」

 もちろん嘘である。

「……そっか。せっかく香織さんに連れて行ってもらおうと思ったのにな~」

 えぇ~!!そりゃないよ~!!


 ジェラシー度0%!匂わせ失敗!


 【反省点】匂わせは可愛いけれど嘘は巡り巡って損をする!


 あー!もう!せっかく一緒に公園に行けるかもしれなかったのに!千載一遇のチャンスを逃したよ!

 まだまだディテールの詰めが甘かったなぁ。「神は細部に宿る」って誰かも言ってたもんなぁ。

 んん?ちょっと待てよ……初めておでかけに誘われたんだから、どこでもいいから「一緒に行こうよ!」って言えば良かったのでは?

 あーあ、私の「匂わせ道」もまだまだ初級だよ。早く段位をもらって、名人レベルになりたいよ~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る