CHAIN_93 お仕置きトライアングル
ツナグは銅像の上から飛び降りて彼女のもとへ。それを見ていたエルマも駆け寄る。
「ここに来てたんだね」
「うんっ。ツナグ君も」
コムギはとても嬉しそうで今にも小躍りしそうな気配があった。
「なんか途中で変になってからずっと心細くて……」
「よくここまで無事だったね」
「うんっ。そのことなんだけどね、色々あって大変だったんだよ」
「こっちもさ。お互い話をする前にとりあえず静かなところに行かないか? ここは人が多くてちょっとうるさいしさ」
「そ、そうだね」コムギはきょろきょろと周りを見回す。
「向こうへ行こう。あ、それとこっちの小さいのがエルマ。タッグを組んでるんだ」
「そうだったんだ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
控えめな態度のエルマに、コムギはにっこり笑って返した。
三人は静かな路地裏へ。そこでまずはコムギからこれまでの道のりを話した。
話を聞けばコムギは序盤からほとんど戦わずスキルを使って逃げていたとのこと。異変が起きたあともそのままずっと隠れていたようだ。
「だって怖かったから……」
「仕方ないよ。でもそのおかげで無事だったんだね」
「うん。ログアウトできなくなってから、なんか変な虫さんみたいなのも出てきて」
マインドイーターか、とツナグは心の内で思う。
「他のみんなには会わなかった? 部長とか先輩とかダイナとか」
コムギは首を横に振った。
「ううん。けど本当に良かった。ツナグ君がいてくれて。助けてくれる人もいなかったからすごく不安で。このまま私どうなっちゃうんだろうって」
「こっちもなんかほっとしたよ。体調のほうはどう?」
「途中で気分が悪くなったんだけど、今はもう大丈夫。街を歩いてる時に他の人から聞いたんだけど、現実世界では医療スタッフがプレイヤーの手当てをしてるんじゃないかって。だからあのチクッとした感触ももしかしたら点滴の針だったのかな」
「……ああ、なるほど。じゃああれは」
雪原エリアにいた時に感じた腕の痛み。おそらくそれは点滴の針が刺された時のもの。
とすればあの不思議な少女はこの閉鎖空間から現実世界に干渉していたことになる。
謎は深まるばかりだが、結果として体調が回復したので今は良しとする。
「ツナグ君たちはどうしてたの?」
今度はツナグとエルマの番。二人は一緒にこれまでの経緯を掻い摘んで話した。
「……そうだったんだ。やっぱりすごいね、ツナグ君は。あんなのと戦おうなんて普通は思わないよ」
「ですよね。僕もすごいと思います、お兄さんのこと」
「エルマさんもすごいよ。実際に戦ったんだから。私なんて逃げてばかりで、結局何もしなかったよ」
コムギは自身の不甲斐なさにため息をつく。
「そんなことないよ。この状況で全てを投げださずにここまで来たんだ。それってすごい勇気だと思う」
「僕もそう思います」
「……そんなふうに言ってもらえるなんて思ってなかったけど。ありがとう。ツナグ君もエルマさんも。分かってる。くよくよしてちゃダメだよね」
コムギがやる気を取り戻したところで今後の話に移った。
「これからは三人で行動するとして、コムギさんはマリアの件についてはどう思う?」
「そんなの絶対に許せないよ。人を洗脳して弄ぶなんて。そのコージさんって人もきっと悔しかったと思うよ」
「じゃあやっぱり懲らしめるべきか」
「悪い人にはちゃんとお仕置きしないとっ! もちろんその周りの人たちには酷いことをしたくないけど」
「僕も同感です。あの人を放ってはおけません」
「ならどうにかしてあの城に戻らないとな」
道中はどうにかなったとしても笑顔で城内に迎え入れてくれるはずもない。
「ツナグ君、忘れてない? 私のスキル」
「ああっ!」ツナグは思わず声を上げる。
「三人だとちょっと狭いかもしれないけど、私の天狗の隠れ蓑 《テングケープ》ならきっと彼女のところまで気づかれずに行けると思うよ」
膝下が丸見えという弱点はあるが、角度や遮蔽物でカバーすればかなり強力な雲隠れスキルだ。
「確かに。それなら一気にマリアのところまで行ける。でももし戦闘になったら」
「今度こそ私も戦うよ。勧善懲悪ってお婆ちゃんが言ってたもん」
きっとお婆ちゃん子なんだろうな、とツナグは思った。
「もちろん僕も精一杯サポートしますっ!」
「……分かった。みんなであいつに一発かましに行こう!」
ツナグの言葉でエルマとコムギは力強くうなずいた。
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