CHAIN_82 凱旋

「敵の消滅を確認。もう大丈夫よ、ツナグ」


 リンの念押しで共振形態が解除されてツナグはほっと胸を撫で下ろした。


 そのあと半壊した城へ向かって歩いていると、


「あっ! 帰ってきたぞ!」

「おーい! こっちだー!」


 城壁の外で生き残ったプレイヤーたちが手を振って迎えた。その内の一人は変身を解除したコージで遠目からでも無事であることが見て取れた。


 光線による攻撃で二重の城壁もかなり崩れていて、もはや外敵の侵入を阻むというその役目を果たしていない。城の内部への行き来が自由になっている。


 到着するとプレイヤーたちがぞろぞろとツナグを取り囲んでいく。


「ツナグ! よくやったな!」コージが一番に駆け寄ってきてくれた。

「おかえり!」

「お前、すげえよ!」

「いったいどうやったんだよ!」

「あいつを倒すなんて!」

「遠くから見てたよっ!」

「俺もできる限り応援したぜ!」

「おいおい、どんなアビリティ持ってんだ!?」


 ロールプレイングゲームで言うところの魔王を倒した後の勇者のような歓迎っぷりにツナグは戸惑った。揉みくちゃにされながらどうにかエルマの姿を探すもなかなか見つからない。不安に思って人混みをかき分けていくと、


「あっ! お兄さんっ!」


 ちょうど向こう側から服のテクスチャが乱れたエルマが現れた。


「……はあ。無事だったのか」

「はいっ!」


 てっきり光線の直撃に巻き込まれたと思っていたツナグ。その笑顔を見て安心した。


「でもよくアレに巻き込まれなかったな」

「あっ、それなんですけど実はあの時にゲットした便利アイテムのおかげなんです」

「あの時っていうと……」


 エルマが最後に所持していたのは、スモークスクリーン。レア度の低いガラクタだと考えていたアイテムだった。


「とっさにバリスタから撃ち出して、そしたら狙いがギリギリ外れてくれて」

「……もう煙幕さんには足を向けて寝られないな」


 物は使いよう。そのことは身に染みていたはずなのにとツナグは自分自身を恥じた。


「それはそうとして、だいぶやられたな……」

「うう……。これもう元には戻せないんですかね……?」


 エルマは恥ずかしそうに手で体を覆い隠した。フルボディスーツの表面、テクスチャの裂け目から所々肌が露出している。その体は現実世界の姿を元に形作られているので実質本人のものと言っても過言ではないだろう。


「助かっただけマシと思うか、もしどうしても気になるなら直せる方法がないか一緒に探してやるよ」

「お、お願いします……」


 そんなもじもじエルマを尻目に上空から大隼とカイが舞い戻ってきた。着陸してから大隼は変身を解いて人間の姿に返った。


 二人も今回の戦いの立派な立役者。他のプレイヤーたちからその活躍を大いに褒め称えられた。微塵も興味なさそうな顔でその人混みからすぐに出てきたカイはつかつかとツナグたちのもとへ。


「おい、そこの」

「えっ、僕ですか?」エルマが真っ先に反応する。

「違う。バカみたいな格好したお前じゃない」

「ううっ……」

「そこのお前、名前は確かツナグだったよな」


 傍若無人連盟の長は厳つい顔のまま接してきた。ツナグは戦いの最中に何か失礼なことでも言っただろうかと思いつつうなずく。すると、


「俺の完敗だ。だが最高の共闘だった」


 意外にも彼は握手を求めてきた。


「こちらこそ。みんなのサポートのおかげでどうにか」

「ふんッ、あれだけの力を持っていて謙遜とはとんだ嫌味だな」

「いや、別にそういうわけじゃ……」


 ツナグは握手をしながらリンを見た。目が合うなり彼女は嬉しそうな顔で「あとでいっぱい褒めてよねっ」と口にした。


 リンだけじゃない。みんながいるから直向きに戦える。痛くても怖くても何度倒れても立ち上がれる。ツナグは静かに周りを見渡して、


「……やっぱり減ってるな」


 プレイヤーの数が減少していることに気づく。


「まあな。見た感じ六、七人以上は飛んでる」


 カイの言葉通り今回の戦いで十名のプレイヤーが消失していた。


「全滅は元より覚悟していた。だから最良ではないが最善の結果だと言える」

「まあ、そう言ってもらえるのなら」


 事実あの場での最善は尽くしたつもりなので責められてもという思いは多少なりともツナグの中にあった。


「その強さは傍若無人連盟に相応しい。もし気が向いたらこっちに来い。あの女のところに行くよりは何百倍もマシだ」

「考えておきます。……ところでそのマリアさんはどこに?」

「知らん。先の攻撃で消し飛んだんじゃないか。どちらにせよ捜す必要はない。そんな暇があったら休んでろ。そろそろ体に不調が出始める頃合いだ」


 カイの助言通りツナグは体の異変を感じ始めていた。喉の渇きが増してたまに目眩のような症状に襲われる。さきほどの戦いが体調不良を促進した可能性は非常に高かった。


「エルマ。お前はどうする?」

「僕はこの服をどうにかしたいです」

「うーん……」


 確認のためにツナグがその体をまじまじと見つめていると、エルマから「……あまり見ないでください」とか細い声で言われた。


「わ、悪い」ツナグは一瞬妙な気を起こしかけたがすぐに平静を取り戻す。

「そうだな。まずは城の中で使えそうなオブジェクトを探してみるか。もしそれがダメなら地下室の便利アイテムを漁ってみよう」

「一緒に探してくれるんですか?」

「ああ。さっき一緒に探してやるよって言っただろ」

「でもいいんですか? 休まなくて?」

「休み休み探すから気にするな。ほら、行くぞ」


 二人はそれから城の内部へ。計二発もの光線を受けた城の中は半壊状態。柱が倒壊し、瓦礫が散乱、天井から地下まで大きな亀裂が入っていた。


 二階への階段にも被害が出ていて気をつけないと今にも崩れ落ちそうだ。


「僕が二階へ行きます。お兄さんはこっちを探してください」

「分かった。気をつけろよ」

「はい」


 そう言って慎重に階段を上がっていくエルマのうしろ。かわいいお尻が半分ほど露出している。さすがにかわいそうなのでツナグはそのことに言及しなかった。

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