CHAIN_77 デバッグモード

「ツナグ。何体までなら相手できそうだ?」

「無理をしなければ殲滅可能なはずよ。全て同一個体と仮定してだけど」


 コージの問いに答えたのはリン。それに合わせて今度はツナグが実際に答える。


「同じやつなら独りでもなんとか全部いけると思う」


 その言葉に周囲は度肝を抜かれた。


「君の強さは間近で見ていたが、それはさすがにありえないだろう」


 呆れ顔のマリアはやれやれと首を横に振っている。


「大口を叩きすぎだが、少なくともお前よりは強いから頼りにはなるだろうな」


 カイがそう言うとマリアは静かに彼を睨みつけた。


「どうした。図星だったか?」

「好きに言えばいい。私は私の仲間を最優先に守るだけだ」

「はっ、一対一でも苦労するお得意の騎士装備とやらでか?」


 一笑したカイ。さすがにそれは聞き捨てならないとマリアは鞘から剣を抜いた。


「……お望みならならばこの場で私の強さを証明してもいいが」

「望むところだ。その薄っぺらな張りぼてごと蜂の巣にしてやる」


 カイが二丁拳銃を構えると、コージが飛びだして二人の間に入った。


「二人ともやめてくれ。ここで戦力が減るのはみんなにとって好ましくないはずだ」


 それぞれが抱えるグループのメンバーも同意見。いくら実力のある代表者といえども全体の意見を反故にはできず二人は武器を納めた。


「これは提案なんだが、見張り役としてグループからそれぞれ数名ずつ出さないか? それを交替制でやれば負担は少なく敵が来たとしても素早く対応ができる」

「……ふむ。なるほどな。悪くない案だ」

「別に反対する理由はない。ちゃんとできるのならな」


 マリアとカイ、双方はコージの提案を呑んだ。


「俺たちは?」

「無所属の二人は補欠として待機しててくれ。万が一誰かが欠けた時のために」


 ツナグたちに向けたコージの言葉でその場の空気が重くなった。誰一人欠けることなく現実世界へ帰還できるとはみんな思っていないのだ。

「とりあえず! これからさっそく最初の見張り役を決めようと思う。グループごとに話し合ってくれ」


 コージが歯切れ良く最初の一言目を発したあとは全員が我に返って話し合いの雰囲気に戻った。


 手持ち無沙汰になったツナグとエルマは城内へと戻る。


「ツナグ。行きたいところがあるんだけどいいかしら」


 それにツナグがうなずくと、


「じゃあ私の指示に従って」リンは案内を開始した。

「どこに行くんですか?」

「ちょっと城内を探索してみようかなって」

「あ、なら僕も一緒に行きます」


 興味があるというよりは一人ぼっちになりたくない感じのエルマ。


 リンに案内されて一階からさらに地下室へと下りていく。薄暗いそこは松明の明かりだけが頼り。


「な、なんでこんなところに来ちゃったんですか……?」

「怖いなら上で待っててもいいぞ」

「で、でももうここまで来ちゃったし。戻るにしても一人はちょっと……」

「ならもうちょっと我慢してくれ」

「……はい」


 エルマはツナグのうしろにぴったりとくっついて歩く。


「あ、ここよ。この石壁」


 リンが指差す先には言葉通りの石壁が。とはいえ地下室は壁全体が石造なのでどこも同じに見える。


「そこに手を当てて。そのほうがやりやすいから」


 ツナグは言われた通りにする。するとなんと壁が真っ二つに割れて隠し扉のように左右へ開いた。


「解除コードは合ってたみたいね。さあ、中へ入りましょ」


 何か知っている様子のリン。それを信じてツナグは中へ。エルマはおどおどしながらそのあとについていった。


 向こう側はテクスチャを貼り忘れたような全面白の小部屋で、大量の便利アイテムが雑多に置かれていた。中央には意味ありげな大きなレバーがあってその存在を誇示している。


「これはいったいなんなんだ……?」


 ツナグが小声でリンに問いかけると、彼女はこう答えた。


「向こう側の人に教えてもらった未実装データの保管場所よ。役に立つかは分からないけどみんなの助けになるならって」


 こんなものを知っているのは運営サイドの人間しかいない。ツナグは向こう側の人が関係者であることを確信した。


「すごい……! 便利アイテムがこんなにたくさん……! お兄さん、こんなのどうやって知ったんですか!?」

「これも教えてもらったんだ。向こう側の人に」


 そうしてリンと目を合わせると彼女は両手を腰に当てて、


「いい仕事したでしょ」


 誇らしげにそう言った。ツナグは言葉を返してやりたかったが、また不自然に思われるといけないので大きなうなずきで返した。


「……うーん。やっぱりアイテムは一つまでかあ……」


 アイテムのそばでしゃがみ込んだエルマが残念そうに言う。


「こんな状況なのにそういうところはバグってくれないんだな」


 ツナグも不満の声を漏らした。


 アイテムボックスに収納できるのは相変わらず一つまで。それでもアイテムに触れたり持ったりすることはできる。お土産としてそれらをみんなに持ち帰る考えは一旦保留にしてさきほどから一番気になっている大きなレバーに再び注目を移したツナグ。


「このレバーは……?」

「引いてみれば分かるわ」


 最近になって勿体ぶる癖を覚えたリン。素直に教えてくれればいいのにと思いながらツナグはそのレバーを引いた。


「――よっと」


 瞬間、城全体が振動した。あの地震ほどの大きさではないがそれにしても長い。しばらくしてそれは収まった。


「上に戻ってみましょ。きっと起動してるはずよ」したり顔で話すリン。

「よし、上に戻るぞ。でもその前に……」


 ツナグは持てるだけのアイテムを腕に抱えて、


「あっ、僕も手伝いますよ」


 それを見ていたエルマも真似をした。


「一旦閉じるわね。また戻ってくればいいし」


 二人が小部屋から出るとリンが隠し扉を閉じた。来た道を戻ってみんなのいる二階へ上がるとバルコニーから話し声が漏れてきた。


 行ってみると以前と雰囲気が変わっていた。よく見れば元からあった城壁をさらに囲うようにして新たな城壁が現れていた。


 バルコニーにも大型弩砲のバリスタが設置されていて振り返ってみると城の造りも堅固なものへと変化している。


「さっきのレバーはお城を要塞化するものよ」リンが言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る