CHAIN_76 揺れのあとに
「……困ったな」コージの口からため息が漏れる。
「マリアの件?」ツナグが声をかけると彼は振り向いた。
「ああ。別に引き抜かれるのはいい。個人の自由だ。けど彼女がこのままグループの統一化を図るなら放ってはおけない」
「どうして?」
「彼女の思想は偏っているように感じる。それが全体にいい結果をもたらすとはどうも思えない。それに……」コージはそこで言葉を区切った。
「……それに、なんだ?」
「彼女の顔と名前にはなぜだか既視感がある。それがいつどこでなのかは思い出せないが」
「有名プレイヤーとか? 強かったし」
「かもしれない。ともかくマリアとカイには十分注意したほうがいいと思う」
「……分かった」
「じゃあ俺も今からグループのみんなとちょっと話し合う。向こうにいるからもし来たくなったらいつでも来てくれ。強制はしない」
そう言うとコージは少なくなったグループのメンバーを引き連れて二階の部屋へと向かっていった。
「二人になっちゃいましたね」
「まあ、そうだな」
本当はもう一人いるけど、とツナグはリンのほうへ目をやった。
「人間の集団心理って面白いわね。理性と野性の均衡が二転三転するんだもの。おかげでデータがたくさん取れてすごくいい感じよっ」
周囲に危険がないからか一転して能天気モードに戻ったリン。
「はあ、気楽でいいよなあ……」
「えっ……?」隣のエルマが目を見開く。
「ああ、悪い。お前のことじゃないんだ。……そう。こうなる前にロストしたプレイヤーは今頃気楽だろうなあって」
「そうですよねえ……。そもそも僕もお兄さんも初参加なのにこれって、とことんついてないですよ……。お家にちゃんと帰れるのかなあ……」
エルマは天井を見上げて現実世界のことを思った。
「心配するなよ。何があっても俺がちゃんと家に帰してやるから」
「……うう。お兄さん。ちょっとだけ、いいですか」
そう言うとエルマはツナグに抱きついてその胸板に顔を埋めた。そこからすすり泣く音が聞こえてくる。
一人っ子なのでこういう時にどうしたらいいか分からないツナグ。少しためらったがその手で背中をあやすように優しくさすった。
二人だけの広間。だんだんと音が落ち着いてきて普段の呼吸に戻っていく。
「――っ!」
「――わっ!」
それを邪魔するかのように地面が大きく震動して二人の鼓動も跳ねた。突然の出来事に理解が追いつかないでいると二階の部屋から出てきたコージが、
「こっちから外が見渡せる! 上がってこい!」と言って駆けていった。
それに従ってツナグたちが二階へ向かう途中でマリアとカイも部屋から出てきた。
「何事だ!」
「なんなんだよ、ったく!」
「それを今から見にいく」ツナグはそれだけ返して先を急ぐ。二人とその仲間たちはうしろからついてきた。
二階から広いバルコニーに出ると、すでにコージとそのメンバーが食い入るように遠くを見つめていた。
「いったい何事だ」
隣に並ぶとコージは向こうを指差した。ツナグとエルマはそれを追って顔を動かす。
「……まただ。また噴火してる」
もくもくと空高く噴煙を上げる火山。以前も同じことがあった。それを機に奇怪なことが起こり始めたことをツナグは覚えていた。
そこに嫌な予感を覚えているのはコージも同じようで前のめりになり視界の中の異変を探していた。
「元々ああいうギミックなんですか?」
「予選には何度も参加してるけどそういうギミックは今まで一度も見たことがない。この回から採用ならなんとも言えないけど、状況が状況だけに違うもののように感じる」
「……ですよね。怖いだけですもん」
コージの回答にエルマは納得していた。
遅れてやってきたマリアとカイ、そしてそのグループも遠くを見ている。その中で望遠スキルを持つ男が後ずさりして腰を抜かした。
「あっ、あっ、あいつらがたくさんいる……!」
「どうした?」マリアが問うと、
「噴煙の中にあの化け物がたくさんいるんだ……!」
男は答えた。その顔は絶望で歪んでしまっている。
その知らせはまたたく間に伝播してプレイヤーたちはパニックになった。
「落ち着け! やつらはまだ遠くにいる。こちらにも気づいてはいない」
「バカども! いちいちビビってんじゃねえ。来たら来たでぶっ潰すだけだろうがよ」
落ち着けようとするマリアとは対照的にカイは奮起を促した。
「試しにエコーの範囲を前方へ限定して飛ばしてみたわ。遠いし噴煙が邪魔して正確には分からなかったけど、かなりの数がいると推測できるわ」
リンまでそう言うならもう間違いだろうとツナグは心の内で覚悟を決めた。
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