CHAIN_34 中堅ダブルス -1-

 第一ラウンドが始まってすぐ彩都高校コンビが動いた。


「天狗の隠れ蓑 《テングケープ》」


 二人は蓑のようなケープに身を隠して敵の視界から消える。


 バトルフィールドは百年以上前の実在した日本の廃村を舞台にしていた。蔦の絡まった木造の廃屋が軒を連ねていてデジタルながら幽霊でも出そうな雰囲気を醸し出している。


 二人は廃屋の背後に隠れて相手の出方をうかがう。


「おうおう。いきなり隠れちゃったじゃん、あいつら」

「そうだね。でもすぐに見つかるよ」


 タオは先端にペンデュラムが付いた占術用の棒を振りかざした。


「占術棒の見識 《フォーチュンルック》」


 静かに唱えると振り子が反応した。指し示したのはレイトたちが隠れている廃屋近辺。


 彼のアビリティ『ダウジングロッド』は振り子の付いた棒による占いで周囲に様々な効果をもたらす。


「あとは頼みまっす、先輩。変身 《メタモルフォーゼ》」


 メルコはスキルを使って大きな水牛に姿を変えた。その名も『メタモルフォーゼ・バッファロー』。


「いっくぞー。水牛の突進 《バッファラッシュ》」


 メルコは振り子の指し示した方向へ突進。オブジェクトも何のその。目の前にある障害物を破壊しながら駆けていく。


「――やっぱりね」


 レイトは素早くコムギを引き連れて別の場所へと退避。ほどなくして二人のいた廃屋が猛牛の猛進に巻き込まれて倒壊した。


「あれ、どこにもいないよ?」


 辺りをきょろきょろと見回すがすでにレイトたちの姿はない。


「メルコ、遅い。場所が変わった。向こうだ」


 振り子は絶え間なく動いている。タオは新たに指示を出した。


「録画で見た通りだね。あれはだいたいの位置しか示さない」

「そうですね」

「指示から攻撃に入るまで余裕もある。ここは遮蔽物も多いし十分有利に戦えるよ」


 レイトとコムギはこれから反撃に打ってでるつもりだ。


「天狗の隠れ蓑 《テングケープ》」


 効果の切れそうなスキルを使い直していざ出発。奇妙にも二人の足だけが木々の合間を縫って少しずつ敵との距離を縮めていく。


「ここからは別行動で。作戦通りに」

「はいっ」

「じゃあまたあとで」


 隠れ蓑から出てきたレイトは別れを告げて単独行動に移った。


「……ん? やつら二手に分かれたか」


 占術棒が大きく二箇所に反応する。タオは周囲の警戒を強めた。


「悪戯な芸術 《トリックアート》」


 レイトは走りながら適当な木のオブジェクトを叩いた。


 そのスキルは効果中、自身の位置情報をオブジェクトに擦りつけるというもの。


 アビリティ『トリックスター』。手品のような技を使って敵を欺くそれが彼の能力。


「あいつらどこにもいないじゃん!」

「――玩具の兵隊 《トイズアーミー》」


 二人を探し回るメルコのうしろにかわいい刺客が差し向けられた。


「んな? なんだこのかわいいの」

「ストーーーップ!」と玩具の指揮官が隊を止めると、

「止まったよ」


 メルコは馬鹿正直に足を止めた。


「レディーーー!」と指揮官が他の兵士に銃を構えさせると、

「おお? あたしとやるのか?」


 メルコは突進の構えをとってその場で足踏みをした。


「ファイアーーーーーッ!」

「わわわっ! ちょっと待って!」


 一斉射撃をされると思ったよりも激しくてメルコは戸惑った。


「メルコ! 何をやってる!?」


 そう叱り飛ばした直後、タオの占術棒は突如として背後を指し示した。


「――ッ!」

「――悪戯な大鎌 《トリックサイズ》」


 振り返ればそこには大鎌を手にしたレイトが。


 首落としの一振り。


「かはッッッッッ!」


 無千高校コンビの体力ゲージが一気に減らされた。


「先輩っ! 水牛の突き上げ 《バッファプレッシャー》」


 メルコはその立派な大角で玩具の兵隊を下から突き上げた。大きく損壊した兵隊たちはガラクタのように地面に転がりスッと消滅した。


「水牛の突進 《バッファラッシュ》」


 そのあとすぐにメルコはタオのもとへ駆け寄った。


「どろん」


 それを見たレイトは大鎌を手品のように消して一時撤退。


「ま、待て!」


 と言われて待つやつはなかなかいない。


「くそッ……」


 タオは廃屋の壁を背にして奇襲攻撃の範囲を狭める。攻撃スキルに乏しい彼にとっては後輩が頼みの綱。


「占術棒の守護 《フォーチュンプロテクト》」


 意識を集中させて八角形の占術円陣を地面に展開。戻ってきたメルコを迎え入れる。陣から出ない限り自分を含む味方の防御力が大幅に強化されるこのスキルはダブルスと相性が良い。急襲による重い一発を狙う者はうかつに出られなくなる。


「玩具の兵隊 《トイズアーミー》」


 接近したコムギが木陰から円陣の外側に玩具の兵隊を放った。


「もう怖くないからねっ!」


 その言葉通り兵隊の射撃は円陣の効果で豆鉄砲なみに変わっていた。役目を終えるとどこか不満そうな顔で消滅した。


「油断するなよ、メルコ。やつらは近くにいる」

「分かってるって。でもあたしたちが負けてるしこっちからもなんかしないと」


 言っているそばから新しい玩具の兵隊が投入された。消えるたびに再び投入される玩具の兵隊たち。その焦らすような攻撃は二人を徐々に苛立たせていく。


「イライラするなあ、もう! 水牛の突進 《バッファラッシュ》」

「おい! メルコ!」


 タオの制止を振り切ってメルコは兵隊めがけて突進した。


「どっかいっちゃえ!」


 その時だった。木の上に隠れていたレイトがメルコの頭上に落下。


「――悪戯な反転 《トリックリバース》」


 その掌を彼女の頭に押し当てた。瞬間、体の向きが反転して仲間のほうへ。


「おい!」

「わわわっ、どいてどいてっ!」


 突進の勢いを急には止められずそのままタオにぶつかった。二人とも豪快に背後の壁を突き破って転がった。集中が途切れて円陣はその輪郭から順に消失した。


 廃屋の中。大量の埃を舞い上げながら起き上がった二人の目の前にはレイトがいた。普段誰にも見せないような顔をして。


「悪戯な月鎌 《トリックハルパー》」


 両手に構えた鎌のような刀剣。景色が一瞬歪んだような錯覚に囚われた次の瞬間にはもうすでに二人は何度も斬られていた。その証拠に体力ゲージが一気に減っていく。


「おしまい」


 止めの一撃で残った体力ゲージをゼロへ。


 終了のゴングが鳴って遠くにいたコムギは小さくガッツポーズをした。


 第一ラウンドが終わりインターバルに入る。

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