CHAIN_21 中堅ダブルス -2-
第二ラウンド開始。
このままの勢いで試合を制する意気込みの彩都高校コンビ。
ブレイクの一歩手前まで追い込まれたはずの出刃具高校コンビはなぜか不適な笑みを浮かべていた。
「コムギ君!」
「はいっ! 天狗の隠れ蓑 《テングケープ》」
二人は定石を踏むかのようにケープで姿を消した。
「落ち着いてみれば簡単な話だった」
「ああ。もう無様な真似は晒さないぜ」
インターバルの間に何があったのか。その顔は勝利を確信していた。
「変身 《メタモルフォーゼ》」
エイに変身したオサムの背にタダシが乗る。
「海鷂魚の加速 《レイアクセル》」
「海鳥の眼 《シーグルアイ》」
同時にスキルを使用。加速したオサムが砂上をジグザグに泳いでいる中、タダシはきょろきょろと辺りを見回している。
「――見つけたぞ。向こうだ」というタダシの指示でオサムが方向転換。ジグザグ泳法のまま獲物を追う。
「マズい。気づかれたかも」とケイタ。
「えっ、ど、ど、どうすれば」
「とりあえずしゃがむんだ」
「は、はいっ」
焦るコムギを落ち着けてともにしゃがみこんだケイタ。偶然と信じて相手が過ぎ去るのを期待した。が、
「捻りの矛 《ツイストパイク》」
二人は完全に捉えられていた。
「ぐふッ……!」
「部長っ!」
攻撃はケイタにヒットした。
「やっぱりな。あの違和感は本物だった」
そう言ってタダシが見つめる先にはケイタとコムギの足があった。
完全に隠せてはいなかったのだ。バトルフィールドの地形やオブジェクトの角度的な助けがなければ膝から下が完全に丸見えとなっている。
覚悟を決めて隠れ蓑から出てきたケイタが構える。
「念力の緊縛 《サイコバインド》」
「――おっと、そうはさせないぜ」
オサムの巨体が目の前に立ちはだかった。
「くっ……」
「お前のそれもお見通しなんだよ」とオサムの背後から声がした。
「くらえ、海鷂魚の毒針 《レイニードル》」
オサムは回し蹴りのように急反転して長い尾鰭に付いた毒針をケイタに突き刺した。
「ぐああああああああああああああああッ!」
体力ゲージが大きく削られる。付加効果で毒のエフェクトも出現した。一定時間、毒によって体力ゲージがわずかばかりだが削られていく。形勢は一気に不利へ。
「玩具の 《トイズ》」
「させねえ! 捻りの矛 《ツイストパイク》」
タダシはコムギより先にスキルを使って攻撃。
「あああああッ!」
天狗の隠れ蓑は解除されてコムギはその場に伏した。
「コムギ君ッ! 念力の 《サイコ》」
「もういいって」とタダシが先駆けて矛を振るう。
そこからの連続攻撃でケイタたちの体力ゲージはゼロに。第二ラウンドは出刃具高校が制した。第一ラウンドと違い最初から一方的な展開となった。
§§§
「ごめん。僕のせいで……」
インターバルに入ってケイタは謝った。
「謝らないでくださいっ! 私も何もできませんでしたし……」
「君は十分よくやったよ! 完全に僕のミスだ」
「部長……」
「落ち込んでいてもしょうがないな。第三ラウンドも頑張ろう! 僕ら第一ラウンドは勝ってるんだからね」
「はいっ!」
二人は気を取り直して次の最終ラウンドに臨んだ。
§§§
一対一で迎えた最終ラウンド。ここで勝ったほうがこのダブルスの勝者となる。
「――念力の誘導 《サイコムーヴ》」
開始早々ケイタが動いた。近くの瓦礫を念動力で持ち上げて放り投げる。相手が避けて目を離した隙に天狗の隠れ蓑を使うつもりだったが、
「お前の能力の限界さ、もう分かってるんだよ」
考えとは裏腹にタダシは避けることなく瓦礫を矛で弾いた。
「そのパワーはせいぜい人一人を持ち上げられる程度。変身した俺には通用しないね」
オサムは余裕綽綽の面持ちで「変身 《メタモルフォーゼ》」と言ってエイへ変身した。
デントひいては電脳空間において脳の処理能力はパワーとスピード、加えてスキル操作にも直結し、現実世界の身体能力もいくらか影響を与える。
つまり頭の回転が速ければ速いほどデントプレイヤーとして優秀と言える。個々人が持つ身体能力も電脳空間に反映されるがそれほど大きな意味を持たない。
だからこそ、たとえば現実世界では手足が不自由だったとしてもその脳の処理能力によっては電脳空間で自由に、いやそれ以上に動き回れるのだ。
自らを凡人と称する須磨ケイタにはそれらが欠けていた。
「そんなの……僕だって分かってるさッ! 念力の波動 《サイコウェーヴ》」
思いを込めた一撃を放つ。しかしそれはいともたやすく受け流された。
「さっさと終わらせて次に繋ぐぞ」
「そうだな」
勝利を確信した出刃具高校コンビは油断を見せず徹底的に攻撃を仕掛けた。
そこからは前のラウンド以上に一方的な試合展開となった。相手に有利な地形と種明かしにより勝算を完全に失った彩都高校コンビはなす術もなく体力ゲージを削られていってそのまま敗北した。
§§§
「お前たちよくやった!」と褒めているのは出刃具高校の顧問。戻ってきたオサムとタダシはほっとした顔で次の選手にバトンを渡した。
これで一ポイントが出刃具高校へ。三連敗によるブレイクは回避された。
「……みんな、ごめん」
「……ごめんなさい」
一方でこちらは彩都高校側。戻ってきた部長とコムギは暗い顔をしている。
「まあまあ、二人とも気を落とさないで。今回のバトルフィールドは相手に有利だったし頑張ったほうだよ」とレイトが励ます。
「いや、完全に僕の実力不足だ」
項垂れる部長を見てコムギは何も言えずにいた。
「さて、次は俺の出番か」と首を鳴らしながら立ち上がるダイナに、
「ダイナ。負けるなよ」と声援を送るツナグ。
「勝てばいいんだろ勝てば」
ダイナはデントのデの字も知らなかった素人。それでもこの日まで練習を欠かさず必死に食らいついてきた。
「それと、お前にはすぐ追いつくからな。覚えとけ」
壇上に上がる前にダイナはツナグを指差した。
初心者滝本ダイナに対するは三年生の
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