CHAIN_7 鎖vs鞭 -2-

 リコルの回転数は急速に上がっていき、やがて竜巻のようになった。少しでも近づくと体力ゲージがガリガリと削られていく。


 それは『スキル』と呼ばれるアビリティから派生した特殊技能。


「あんなのありかよ!」


 幸い移動速度と追尾性能は低いが迂闊に攻撃ができない。このまま制限時間いっぱい粘られると体力ゲージの減り具合からツナグの敗北が決定してしまう。


「リン!」

「分かってる! 頭上からの攻撃は有効なはずだけど、あからさますぎてたぶん対策されてるわ」

「やってみなきゃ分かんねえだろ! 対策済みでも気合でぶち抜いてやるさッ!」

「本気!? 失敗したらどうするの!?」

「やる前から失敗なんて考えるわけねえだろ! いくぞッ!」


 やると決めたら真っ直ぐ突っ走るツナグ。タイミングを見極めて両手から鎖を地面に向けて射出。宙へ飛び上がり、リコルの頭上を補足した。予想通り頭上は鞭の装甲が厚く生半可な攻撃ではすぐに弾かれて終わりだ。


「どうするつもり!?」とリンが声を張り上げる。

「任せとけッ!」とツナグはリコルの頭部目がけて両手から鎖を射出。同時に左足からも鎖を出して螺旋状に巻いた。それはまさしくドリルのよう。

「足から!?」

「どこの誰が手からしか出せねえって言ったッ!」


 射出した両手の鎖がリコルの頭部に絡まり、そのことで自身も回転し始めた。


「いくぜッ! 螺旋の鎖 《ドリルチェーン》」


 ツナグは全力で両手の鎖を引き戻した。急速な引き戻しと高速回転が加わり、


「くらいやがれッ!」


 その螺旋の蹴りはその場にいた者全ての想像を超える威力となった。


 大気をつんざく衝撃音。振動するバトルフィールド。


「ま、まさかッ」


 驚く間もなく鞭の装甲はこじ開けられてリコルの頭部に見事直撃した。


 スマッシュヒット。必要最低限の痛覚レベルの中で最高段階を迎えた攻撃が最上位のパフォーマンスを叩き出した時にのみ贈られる特殊な技術判定。


 プロですら出すのが難しいとされるその判定にケイタとレイトは目を見張った。


 結果としてリコルの体力ゲージはゼロになり勝敗は決した。


 互いが非武装状態に戻り勝敗が表示される。今回は匿名のランダム対戦ではないのですぐに待機状態へ戻ることはない。


「よっしゃあ! 俺の勝ちだ!」


 ツナグは大きくガッツポーズ。リンも「やったね! ツナグ!」と言って嬉しそうにしている。


「マジで勝っちゃったよ、あの一年」

「……信じられん。というのは失礼か。元からこれほどの実力を持ち合わせていたのかもしれない。それならあの自信もうなずける」


 ケイタとレイトはただただ目の前で起こった出来事に驚いていた。


 負けたリコルは愕然と項垂れていてその体は震えていた。


「……一応、その……」とツナグは手を差しだした。しかしリコルはその手を払ってログアウトした。

「なんなのあいつ!」とリンは頬を膨らまし、ツナグは静かにログアウトした。


 §§§


 元の世界に戻った四人。言い出しづらいツナグに代わって、


「リコル君。ツナグ君の入部届、返してもらうよ」


 部長が言いだした。リコルはしぶしぶタブレット端末を返した。


「まだ認めたわけじゃないからな」


 よほど悔しいのかリコルのその目には涙が滲んでいた。


「まあまあ。この話はいったんおしまい。ツナグ君、もう一度聞くけど本当に入部するのかい?」

「はい! よろしくお願いします!」

「……アプリケーション受理。ようこそ、彩都高校デント部へ。改めて歓迎するよ」

「いらっしゃい。まあ、気楽にいこうよねえ」

「…………」


 一人を除いて歓迎ムードの中、ツナグはなんとかデント部に入部となった。


 しかし彼は知らなかった。今のデント部の現状を。

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