CHAIN_3 DENTO《デント》
「えーと……デント、デント……」
マップで検索するとデントができる最寄りの施設が表示された。デントが遊べる施設を総じてデントセンターと呼び、利用者は気軽に対戦を楽しむことができる。デントを遊ぶには高価な据え置き型の専用機械が必要となるため一般人は基本的にデントセンターへ赴くことで楽しんでいる。
「おっ、近くに一つあるじゃん」
マップの指示通りに歩いていくと小規模のデントセンターにたどり着いた。小学校以来のデントセンターに懐かしさを感じつつ受付へ。
「いらっしゃいませ。新規の方ですか?」
「はい。そうです」
「ではまずこちらに記入をお願いします」
ツナグは受付の若いお兄さんに電子端末を手渡された。名前や住所など基本事項を記入して返却するとものの数分で会員証が出来上がった。
「こちらが電子会員証になります。支払いは会員証にチャージしたものから引き落としになります。もし初心者の方でしたら僕がレクチャーしましょうか?」
「あ、大丈夫です。昔ちょっとだけやったことがあるので」
「そうですか。ではルールやマナーを守ってお楽しみください」
ツナグは自身の携帯端末に電子会員証をインストール。お金をチャージしてから受付をあとにした。
デントセンターには揺り籠に入った卵のような大型機械が設置されていた。
『
会員証をかざすと割れるようにして上下へ開くDIVE。中は薄暗くシリコン状の座席が設置されていた。靴を脱いでひんやりとしたそれに座ると体を包み込むように沈み込み、ヘッドギアが自動で装着された。手足にも補助ギアが装着されて、いざ電脳空間へ。
すっと意識が暗闇に紛れると、次に立っていたのはコンピューターゲームの中のような世界。衣装は普段着からデント用のフルボディスーツへと変更された。
ツナグは手足の感覚を確かめたあとデントのチュートリアルを開始した。久しぶりのデントに少し緊張気味。
模擬試合用に形成されたコロッセオのようなバトルフィールド上に練習用キャラクターが登場した。
「確か昔もこんなんだったなあ」
デントプレイヤーはそれぞれが戦闘用の特殊能力【アビリティ】を有している。それは武具であったり魔法の類であったり中には変身するものもある。
運営元であるラジエイト社のマザーコンピューターが最も適した能力を決めてくれるのだ。よほどこだわりがなければ大抵はそれで決まりだが、どうしても嫌な場合は再申請して第二・第三の適性能力まで提示してくれる。それ以上はない。
そしてツナグもその内の一人で小学生の頃に最適性のアビリティを決めてもらっていた。というのが、
「……これだよこれ」
手からぶらりと垂れ下がったそれは矢尻のような突起が付いた鎖だった。
「ツナグ、それ何?」
リンが現実世界と同じように語りかけてくる。
「鎖だよ鎖。子供の頃はリンクチェーンとか呼んでたっけな」
「もしかしてそれで戦うの?」
「そうだよ。悪かったな。子供の頃さ、みんなで一緒にやってたんだけど周りはみんなかっこいい武器や能力で、俺はこれ。だからやめたんだよ。仲間外れにもされたし」
「変えちゃえばよかったのに」
「変えれたけどこの鎖があなたに最適ですって言われたらやる気なくすだろ」
「最適ならいいじゃん。人間ってよく分からないなあ」
「お前にこの気持ちは分からんよ」
「ふーん。いいもん。そのうち分かるようになるから」
「だといいんだけどな。とりあえずさっさと始めるぞ」
長話はここまでに。ツナグは模擬戦を開始した。練習用キャラクターは明らかに低レベルと言わんばかりの動きをしている。
「ツナグ、どうやって戦うの?」
「基本的には、こんな感じでチェーンを飛ばして足を引っかけたり」
ツナグの鎖は真っ直ぐ飛び、足を絡めとられた練習用キャラクターは転倒した。
「相手の武器を奪ったり」
ツナグはすかさず転倒した相手の武器を鎖で絡めとり奪いとった。
「複数本出して束ねてから思いっきり引っ叩いたり」
両手から複数本の鎖を出して一本に束ねたそれで相手を引っ叩く。
「まあ、こんな感じよ」
「どう表現したらいいか分からなくて、辞書を検索したら地味という表現がヒットしたわ」
「うるせえ! 地味で悪いか!」
「でも戦い方としては間違ってないわ。いい感じよ」
「所詮、練習用キャラだからな。実戦はこう上手くいかねえよ」
「そうなの? ちょっと待ってね。プレイガイドをダウンロードさせて」
デントに関する知識があまりないリンは情報を取得して理解した。
「なるほどね。ツナグの今の処理能力と地味な戦い方じゃどうしても相手の体力ゲージをなかなか減らすことができないのね」
「いちいち地味って言うなよ」
デントの試合は格闘ゲームに似ていて制限時間内にどれだけ相手の体力ゲージを減らすことができるかを競う。当然体力ゲージがゼロになればその時点で試合は終了となる。公式戦の場合は三ラウンド制で二ラウンド先取の勝利。鍵となる攻防の判定は機械がおこない、攻防の種類や体の部位など多角的な観点から高度な計算がなされる。
「とりあえず始めましょ。全部私が決めちゃってもいい?」
「いいけどなるべく安いやつで頼むぞ」
プレイヤーはまず匿名か実名かを選択する。実名の場合はラジエイト社のオフィシャルランキングに登記されて勝敗により順位の上げ下げがおこなわれる。順位によって様々な恩恵を受けることができるので将来プロを志望するプレイヤーにとっては必須である。匿名の場合は顔を隠して気軽に遊べる代わりに何の恩恵もない。
次に対戦方式。シングルスもしくはダブルス。ツナグは二人だが実質一人なのでシングルスとなる。
最後に対戦エリア。センター内の誰かと戦うローカルモード、グローバルネットワークを通して地域や国内や世界中の人と渡り合うグローバルモード。DIVEの稼働コストの関係でローカルとグローバルでは値段に大きな開きがあった。
「匿名シングルスのローカルモードでいい?」
「それでいいよ」
対戦相手検索中とのメッセージが目の前に表示される。ほどなくして相手が現れた。
§§§
「ツナグ! あともうちょっとだったのに!」
「分かってるって!」
現在の成績は五戦五敗。惨敗だった。普段から遊んでいる他のプレイヤーからすれば小学校以来で初心者のツナグは鴨同然だった。
「やっぱりテクニック不足なのよ、ツナグは」
「じゃあ他にどうしろって言うんだよ」
「私がサポートするわ! 二人の同期率を上げてツナグの処理能力を上げればもっと上手く戦えるはずよ!」
「つまりどういうことだ?」
「私とツナグが合体するってこと!」
「……おいおい、大丈夫かそれ?」
いつになく不安げなツナグの姿を見てリンは自信満々のポーズを取った。
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