拍手 119 二百十六「進む、停滞する、見つかる」の辺り

 ティザーベルからの音沙汰がない。いや、一度手紙は来たけれど、それ以降全くと言っていい程ないのだ。

「……こっちの事、忘れてね?」

 ついそんなぼやきも出ようというものだ。

「セロアさん、どうしたんですか?」

 今日は菜々美ちゃんやザミ、シャキトゼリナとの食事会だ。最近シャキトゼリナが見つけたという店に来ている。中々おしゃれで、女性好みの店だ。

「んー? 薄情な友達の事をとねー」

「もしかして、ベルさんの事?」

「そう。薄情だと思わない!?」

 ドンとテーブルを拳で叩く。驚く三人の目が、こちらに集中した。

「一回手紙は来たけど、それっきりよ!? 一体どれくらい帰ってきてないと思ってんのよ、まったく」

 前回の手紙から、既に一ヶ月以上だ。手紙に書かれていた内容が内容だから、今彼女がどこにいるかは誰にも言えないけど、それにしたって連絡がなさすぎる。

「まあ、冒険者って依頼を受けて出たら、一月二月連絡取れない場合もあるからねえ」

「なんとも言えない」

 ザミとシャキトゼリナは、同業者故かティザーベルの連絡のなさに理解があるようだ。確かに、今いる場所がラザトークスの魔の森の奥だったら、連絡が取れないのも仕方ないと思うし、身の安全を心配するところなのだけど。

 実際には、訳のわからない罠にはまって余所の大陸に飛ばされ、そこから一度帰ってはきたもののまた向こうの大陸に行っているという。

 ティザーベルが向こうの大陸にとどまる一番の理由。エルフの救済。

 ――まさか、ここにきて他大陸にエルフがいるとはなあ……

 小説かマンガのような記憶を持ったままの転生をした先が、剣と魔法の世界だった事に驚いたのはもう随分前の事。

 それでも、周囲にいわゆる人外……亜人という存在がいないので、そういう世界なんだと思っていたら、まさかのエルフ、獣人の存在の報告である。

 見たい。エルフは本当に美形揃いなのか、獣人は本当にケモ耳なのか。余所の大陸って、どんなところなのか。こんな時程、自分に魔力がないのが悔やまれる。

 そう、セロアも魔法が使いたかった。でも、生まれついて魔力はなく、随分と落ち込んだ事もある。

 それもあってか、火事で両親を亡くした際、リサントにギルド職員にならないかと声をかけれた時、嬉しかったものだ。少しでも憧れの職業に近い場所にいられる、と。

 それがどんなに甘い考えだったか、すぐに思い知らされたけれど。

 冒険者に魔法士は驚く程少ない。ほぼゼロと言っていい。しかもこの国での冒険者の立ち位置はヤクザそのもの。街での鼻つまみものがつく仕事だった。

 中には高額依頼をコンスタントに受ける連中もいるけれど、数は圧倒的に少ない。ラザトークスという魔物狩りに適した街に生まれ育ったから、他の街よりも良質な冒険者を見る機会が多かったにもかかわらず、だ。

 そんな中、成人になってすぐに冒険者登録に来たのがティザーベルだった。同じ都市で冒険者、しかも孤児院出身の「余り者」。でも、凄腕の魔法士。

 彼女はすぐに頭角を現した。幼馴染みで同じ院出身だというさえない男とパーティーを組んでいたけれど、持ち込む魔物の質も量も段違いだった。

 またそれを妬み、あれこれ噂する連中がいる。悔しければ自分達も大物を狩ってくればいいのに、相手をおとしめる事で自分が優位に立ったと勘違いしている類いの連中だ。

 そんなクズ共にも、彼女は一歩も引かなかった。心ない噂話は鼻で笑い飛ばし、実力行使をする連中にはさらなる実力でもって当たる。

 そんな彼女が、同じ転生者だとわかった時の衝撃。何気ない自分の一言から、転生者だと相手にバレ、お互いのカミングアウトと相成った。

 そこからは、妙に馬の合う彼女と友達として付き合ってきたけれど、他大陸に行ったっきり帰ってこないのはあんまりではないのか。

 たまには帰ってきて顔ぐらい見せやがれ。言えない言葉を飲み込んで、今日は盛大に呑もうと思う。たまには、こんな日があってもいいのだ。


 後日、ギルドで顔を合わせたザミ達が妙によそよそしい態度だったのは、何故だろう?

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