拍手 109 二百六「聖都」の辺り
ノリヤがフォーバルに「彼女」を紹介されたのは、聖都に入る少し前だった。
「ノリヤ、こちらがティザーベルさん。マレジア殿からの紹介です」
ノリヤの前に立つ少女は、どこからどう見ても普通の娘さんだ。こんな若い娘が、あの管理局に対抗出来るなど、どうやっても納得出来ない。
「彼女が、ですか? 失礼ですが、とてもそんな風には――」
「見えないかい?」
「……ええ」
「それは仕方ない。私も、マレジア殿に引き合わされた時は、正直信じられなかったから」
フォーバル司祭が懇意にしているというマレジア。彼女の素性はよくわからないけれど、あの異端管理局でも上位に入る危険人物として知られているという。
そんなマレジアが、目の前の少女を推薦したというのか。
ノリヤの視線に気づいたのか、少女は不機嫌そうに眉をひそめる。
「そんなに信じられないなら、目の前で何かやろうか?」
「え?」
「魔法が使えるかどうか、信用出来ないんでしょ? だったら、実践して見せればいいのかと思って」
そういって笑う少女は、年にそぐわない様子を見せている。判断が付かず、フォーバルを見れば、彼は苦笑していた。
「そうですね。では、この街を出て西に少し行くと森があります。そこで、少し狩りをしてみてはいかがでしょう?」
「司祭様! あの森は――」
「大丈夫ですよ。あなたの身に危険が及ばない事は、保証します」
そうではない。フォーバルが言った森とは、この街の猟師でさえ入らない恐ろしい場所だ。
昼なお暗く木々が生い茂るそこは、魔物の宝庫だとも言われている。不思議と魔物は森からは出てこないので、近寄りさえしなければ危険はないのだが。
そんな森に、彼女の実力を見る為だけに入ろうとは。焦るノリヤを余所に、何故かティザーベルは嬉しそうだ。
結局、森には二人で行き、嫌でも彼女の実力を知る事になった。戻ったノリヤはあまりの体験に呆然としていたが、ティザーベルの方は生き生きとしている。
「ど……どうしてそんな……」
「え? 何?」
普通にしていられるのか。そう訊ねようとして、言葉をなくした。ノリヤにとって死を覚悟するような場所でも、彼女にとっては遊びに行った程度なのだろう。
確かに、これなら異端管理局ともやり合えるかもしれない。何より、彼女の強さは本物だった。
その夜、教会と周辺の住人には、森での狩りの成果である、大牙猪が振る舞われた。
そんなティザーベルをして、たった一言で固まらせるとは。
カタリナ、なんて恐ろしい子……
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