拍手 108 二百五「通りすがり」の辺り
ベノーダが異端管理局に入ったのは、六歳の頃だった。教会付属の孤児院に捨てられていた彼は、五歳の時にある検査を受けてから大聖堂へ送られ、少しして異端管理局に入局したのだ。
管理局には、彼と同年代の子供も多かった。同じように孤児院から集められた子供達で、毎日よくわからない事ばかりやらされている。
ベノーダはよく泣く子供だった。人見知りする子で、院で仲の良かった子から引き離された結果、局にも大聖堂にもなじめず、物陰で泣く毎日だったのだ。
「あんた、誰?」
そんなベノーダに、ある日突然変化が訪れた。いつも通り物陰で膝を抱えている彼に、小さな陰が声をかけてきたのだ。
見上げると、見慣れない女の子が立っている。ふわふわの髪に大きな瞳のかわいらしい子だ。
思わず彼女の顔に見とれていると、焦れたように同じ言葉を重ねた。
「耳が聞こえないの? あんた、誰?」
子供心にも、彼女のイラつきが感じられた。そして、この女の子は怒らせてはいけない、とも。
「べ、ベノーダ……」
「名前聞いてるんじゃ……あれ? 聞いたのかな?」
カタリナは何やら考え込んでしまう。その姿に、オロオロしつつもベノーダは何も言えなかった。
やがて、彼女の中で何か結論が出たらしい。
「いいや、こんなところで小さくなってないで、あっちいってちゃんと練習しなさい!」
「は、はいいい!」
カタリナに追いやられるようにして、ベノーダは訓練中の子供の輪に戻っていった。
「そんな事もあったなあ……」
「ベノーダ、気持ち悪い。近寄るな」
「カタリナ……君って子は……」
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