拍手 090 百八十七 「隠れ里」の辺り
「暇だー」
書類がうずたかく積み上げられた机を前に、クイトは恐れ知らずな言葉を吐いた。当然、彼の副官はしっかりと聞いている。
「ほう? 目の前のこの書類の山を見て、そんな戯れ言をほざくとは、いい度胸だ」
「え? あ、いや、仕事がないって意味じゃなくてね?」
「ではどんな意味でほざいたと? 今すぐ定型の書類に起こして提出しろ!」
「えー?」
周囲の部下は、またかと言いたげな顔で彼等を横目で見ている。クイトの机に書類が山積みという事は、部下である彼等の仕事もまた山積みという事だった。
そんな忙しい最中、上司達の喧嘩に意識を向けている余裕はない。よってちらりと見ただけで手元の仕事に戻るのだ。ある意味、副官による教育の賜だった。
その副官は、ただいまクイトを追い詰めている。
「で? 何をどうすればあんな戯れ言が出てくると? キリキリ吐いてもらいましょうか?」
「いや、だから仕事の事じゃなくて――」
「それ以外で、今気にすべき事があるとでも? くだらない事に労力を割く暇があったら、とっととこの山積みの書類を捌け能なし」
「酷い。俺、一応皇子で上司なのに」
「だからこそ口で言うだけに留めていますが何か?」
「く、口以外だと何があるのかな?」
「実力行使という言葉、知ってます?」
「仕事します……」
「よろしい」
「はー……何か、前より書類の数、多くなってない?」
「あんたがネーダロス卿を怒らせるからでしょうが」
「? どういう事?」
「本当、何も知らないんですね。卿のご厚意で、今まであんたに回るはずだった書類の半分近く、あの方の方で調整してくれていたんですよ。それを、恩知らずにもあんたが卿を怒らせるから」
「じじい、なんという細かい嫌がらせを……」
「これまでの事に感謝して、キリキリ働け」
「はい……」
今日も魔法士部隊は平和だった。
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