拍手 103 二百「レニル」の辺り

 獣人の里の入り口には、常に門番として最低二人は立っている。

 その二人が、お互いに顔を見合わせた。

「なあ、これって……」

「間違いねえな……」

 二人は同時に、ある方向を見る。彼等は知らないが、その視線の先には七番都市の入り口があった。

「どうする? エジルに報せるか?」

「やめとけ。まだ落ち着いてねえんだから」

 彼女がツイクスと名付けた人間の男が消えてから、エジルはずっと泣き続けている。誰がなだめても駄目で、最近では祖父の里長ですら諦めかけていた。

 そんな彼女に、ツイクスが側まで来ているなどと言った日にはどうなるか。火を見るより明らかではないか。

「今はそっとしておくしかないって、里長も言ってたろ?」

「……だな」

 どのみち、自分達獣人は他の種族との間に子をなす事が出来ない。諦めるより他ない想いだ。

 彼等は犬型の獣人で、他の獣人よりもさらに鼻が利く。離れたところにいるヤードの臭いにも、敏感に気づいたらしい。

 エジルは泣き続けている為、鼻が利きづらくなっているのだろう。そうでなければ、今頃家を飛びして彼のいる森に突っ走っているはずだ。

 だから、自分達は沈黙する。これはエジルの為なのだ。決して、里に面倒ごとを起こさない為の沈黙ではないのだ。

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