拍手 066 百六十三話 「出立」の辺り
「つまんないなあ……」
仕事場の自分の机の前で、クイトはそんな事を呟いた。彼の言葉に同意してくれる人物は、ここにはいない。
ラザトークスに行ったティザーベルからは、ギルド経由で手紙が届いた。ネーダロス卿にだけかと思っていたら、自分にもあったのだから驚く。まさか、依頼に出た先から手紙を送ってくれるとは。
だが、その中身は実に素っ気ないものだった。
『しばらくかかりそう。悪いけど、実験は先延ばしになります』
一枚に、たったこれだけだ。ネーダロス卿への手紙も見せてもらったが、こちらとどっこいの中身だった。
一体、彼女はあの街で何をやっているのか。
「いっそ、僕も行こうかな……」
「今、何て言いました!?」
何気ない一言に、今回は反応する人物がいた。クイトの副官を務める女性だ。副官の彼女が裏でなんと呼ばれているか、クイトは知らない。副官の裏の名は「魔法士部隊副隊長のお守り係」だ。
「一体、いつ、どこへ行こうっていうんですか!」
「え? いや、別に計画があるって訳じゃなくて――」
「当たり前ですよ!! 計画的に仕事から逃げられては、こっちがたまったもんじゃない!」
今日の彼女は、いつにも増して怒りに震えている。そんなに悪い事をしただろうか、と己の所業を振り返るが、今日はまだ何もしていないはずだ。
「えーと、僕、何か悪い事、したかな?」
「悪い事はしていませんが、仕事もしていませんよね!? 先程渡した書類、決裁していただけましたか!?」
「あ」
「早急にやるように。あと、それが終わってもまだ仕事は山のように残っていますので、仕事を放棄するような発言は控えましょう」
「はい……」
その日、クイトは珍しく仕事の励んだという。
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