拍手 046 百四十二話 「森の道」の辺り

 車内は静かだった。誰も口を利こうとしないのだから、当然か。フローネルは隣に座る妹のハリザニールの様子を窺う。

 彼女は今頃自分のしでかした事の大きさを実感しているのか、青い顔のまま黙り込んでいた。

 フローネルは、小さく溜息を吐く。妹はまだいい。問題は目の前で眠るユキアだ。

 元々気が弱く、幼馴染みで強気のハリザニールに振り回され気味だった娘だが、まさか外にまで連れ出されるとは。

 受けた傷は、彼女の方が大きいだろう。しかも、彼女は里の中でも特別視される族長の直系一族の娘だ。

 エルフの里では、ここ数百年程子供が生まれにくくなっている。そのせいか、どの家でも生まれた子を大事にしていた。

 フローネルも、妹のハリザニールが可愛いし、大事にしている。だが、周囲から見れば、それは「甘やかし」なのだと、何度も言われていた。

 その通りだったのだろう。だからハリザニールは無断で里の外に飛び出し、ユキアまで巻き込んだ。

 妹は、おそらく何も考えずに行動したに違いない。里の中、家の中でなら、何をやっても大抵の事は許されたから。

 でも、それが掟に背く事となれば話は別だ。妹がそんな大それた事をした原因は、本人の性格故もあるが、大部分は育てたフローネルの責任でもある。

 おそらく、ハリザニールに下される罰は重いものになるだろう。その時、自分はどうするべきか。

 覚悟を決めたフローネルは、もう一度眠るユキアを見る。穏やかな眠りでないのは、その表情を見ればわかる。

 妹が傷つけてしまった彼女に対し、フローネルは心の中で謝罪した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る