拍手 042 百三十八話 「穴の底と、木々の陰」の辺り

 仲間が「狩り」に失敗した。定時連絡がないのを訝しんだ仲間が見に行ったところ、発覚したのだ。

「へまやりやがって」

 別働隊を指揮する男は、悪態を吐きつつも仲間の救出に向かう事にする。別に仲間意識にあふれた行動ではない。失敗した奴らから、こちらの情報が漏れないようにする為だ。

 エルフ狩りは、表向き違法ではない。近辺の国や街では宗教の関係で亜人は人と見なさないのだ。だから、彼等を狩ったところで「人」を傷つけた事にはならない。

 もっとも、明確に「亜人」の扱いを法で決めている国など、ないのだけれど。

 ぎりぎり向こうの様子が見える場所まで移動し、苦労して手に入れた遠見を使ってあちらの様子を窺う。

 エルフが三人に、異様な風体の人間が一人。

「つか、あれ、人間か?」

 彼がそう呟くのも無理はない。相手は黒いローブで全身を覆い、奇妙な仮面をつけている。人以外の何かだと言われても、思わず納得してしまいそうだ。

 とはいえ、あんな異様な奴など、こちらの手練れには敵うまい。エルフは手持ちの魔封じの珠を使えば無力化出来る。

 そこで、男はある事に気づいた。捕まった連中も、魔封じの珠を持っているはずだ。あれは組織の部隊全てに配られているのだから。

 ならば、エルフに負けるはずがない。珠を持つのは部隊を指揮する部隊長と決まっているし、捕まった部隊の隊長も狩りには馴れている奴だ。

 では、何故彼等はへまをしたのか。もっと早く、彼はそれに気づくべきだった。

「あの黒ずくめ野郎のせいか!」

 それ以外に、失敗の原因など考えられない。組織の中で、向こうの部隊とこちらの部隊は狩ったエルフの数を競っていた程なのだ。

「野郎……ふざけた真似しやがって。切り刻んでやる!」

 そう毒づくと、部下に突撃の命令を下そうと振り返った。彼の意識は、そこで途絶える。

何が起こったのかもわからないまま、彼等は先に捕縛された仲間と同じ目に遭うのだった。

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