拍手 010 百話 「陶板焼成」の辺り
工房の窓から外を見る。急な雨だからか、通りを行く人の姿もない。帝国には傘を差す習慣がないから、雨が降ったら濡れながら先を急ぐか、どこかで雨宿りするのが普通だ。
「傘……作っても売れないだろうな……」
いっそ作って売り出すのはどうか、とも思ったが、買う人間は少ないだろう。雨の中、傘を差してまで先を急ぐ事をしないのが帝国人だ。
こういう日は、洗濯をせずに済むのは助かる。イェーサの下宿では、契約している洗濯屋があって、そこに出すと割引で洗濯してくれるのだ。といっても、ティザーベルはまだ使った事がない。汚れ物は魔法で洗濯乾燥まで出来るので、必要ないのだ。
「洗濯機……も無理か」
作ったところで、買う人がいなければ売れない。帝国では、炊事と洗濯は人任せにするのが当たり前とされている。炊事は安い定食屋や屋台があるし、洗濯は洗濯屋がある。ある意味、合理的な生活といえるだろう。
いわゆる白物家電が一切いらない生活というのも、便利だが少しだけ味気なくも感じる。そのうち、工房の二階のキッチンで、何か自炊してみようか。
帝国では香辛料も砂糖も塩も、簡単に手に入る。特に帝都には国中から物が集まるからか、生産地より少し割高程度で何でも買いそろえられるのだ。
おそらく自分たちよりずっと前にいたであろう、日本からの転生者のおかげで、米も味噌も醤油もある。昆布も鰹節まであるのだから、和食は作れそうだ。
「そうと決まれば、何を作ろうかな?」
その前に、長い事自炊していないティザーベルが、果たして料理を作る事が出来るのか。本人はその辺りに思い至らないようだ。
果たして、彼女は本当に和食を作る事が出来たのか。それは神のみぞ知る。
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