傘をかしたくらいで″荷物持ち″に惚れる″聖女様″がいるはずがない……いたっ?!〜お前らはやく結婚しろ〜
ファンタスティック小説家
第1話 聖女様が夢のような仕事をくれました
新暦3049年 5月9日
「マリー、僕の傘つかう?」
その日は雨が降っていた。
身もこころも凍る冷たい雨だった。
いまは幼きその少女は村の元冒険者のもとで剣を学び、その帰り道に洞窟で服を濡らして、雨宿りをしていた。
誰も迎えにはこない。
こんなところにいては、風邪をひいてしまう。
彼女は傘を忘れた事を悔いて、今にも泣きそうな顔で肩を震わせていた。
そんな時だった、その少年が現れたのは。
「っ、ま、マックス、くん、わたしを入れてくれるの?」
これは恋愛の″れ″の字すら知らない頃の、のちの聖女となる少女の淡い思い出。
「うん! 困っている人を見つけたら助けてあげないとね! 一緒にかえろうよ、僕も秘密の特訓からかえるところだったんだよ!」
少年の純粋無垢な優しさに、少女はコロッと
ありていに言えば、恋をしていたのだろう。
ーー今でも時折、思い出す
これは、それまで何ともない村の知り合いが、彼女にとってもっとも大切な人へと変わっていった始まりの出会いであった。
⌛︎⌛︎⌛︎
ーー時は経ち、現在
新暦3053年 4月13日
「マックス、今日からあなたを私の朝起こし係に任命するわ!」
彼女はそう言って、ビシッと俺のことを指差してきた。
冒険者ギルドの喧騒から逃れた、その裏手のベンチで、俺たちが将来の展望について話し合っている時のことだった。
俺は耳を疑った。
だって、そうだろう。
彼女は″聖女″、俺は″運び屋″。
幼馴染という関係なだけで、同じパーティを組ませてもらっている俺に、朝起こし係の任が回ってくるのんてありえない。
というか″朝起こし係″ってなんだ。
俺は困惑しながら、ここはどう返事するべきかを思案し、そのためのヒントとして数十分前の親友の助言を思いかえすことにした。
⌛︎⌛︎⌛︎
ここは神殿。
俺は柱の影から、神殿の中央を見つめる。
そこで、たくさんの信徒をまえに朝のお祈りを捧げるのは【施しの聖女】。
彼女の名はマリー・テイルワット。
故郷も同じ、年も同じ、家だって隣だったくらい、小さい時から知っている幼馴染だ。
とてつもない美少女で、
村でも一番可愛いと有名だったのに、【クラス】をもらってからは、もう周辺都市ふくめて一番可愛いとまで言われるようになった。
「またそこにいるのか」
「っ、なんだ、オーウェンか。びっくりさせるなよ」
ビクッとしてふりかえると、蒼瞳をもつ背の高い男がたっていた。
彼の名はオーウェン。
マリーと同じ、俺のもうひとりの幼馴染。
剣の天才と言われていて、すでにこの街の誰よりも強い。俺の自慢であり、憧れだ。
「マリーと一緒にお祈りに参加しないのか?」
「ぇ、え、いや、なにマリーと一緒にって? 意味わかんないけど? うん?」
どもりながら全力でとぼける。
「マリーを見てたんじゃないのか?」
「ち、違うし」
「そうか……お前も難儀なものだな」
オーウェンは淡白につぶやき、俺と一緒になって柱の影から、朝のお祈りを観察しはじめた。やめろよ、バレちゃうだろ、頼むからどっかいけよ。
俺たちの住むソフレト共和神聖国では、子どもたちは10歳になる年に神殿へおもむき、そこで【クラス】と〔スキル〕を″女神″よりさずかる。
【クラス】はその者が、一番輝けるだろう人生の役目。
〔スキル〕は女神から贈られるランダムな特殊能力のこと。
マリーは可愛いだけでなく、この【クラス】と〔スキル〕も特級のものを引き当てた。まさに神に愛されたという言葉がふさわしい。
オーウェンも以前から女子たちに告白されるのが絶えないイケメンだったのに加え、スキルまで〔
それに比べて、同じ日にその場にいた俺はクラスは【運び屋】、スキルは〔
俺はどう考えても、オーウェンにもマリーにも釣り合わない。
特にマリーはこうして神殿勢力の顔として、ソフレトという国家のために仕事をするくらい″運び屋″とはあたえられた人生の意味、その重み、価値、身分が違いすぎる。
幼馴染というだけで、やすやすと話しかけることさえ、はばかられるのだ。
「マックス、マリーがお前にお願いをしてきたとしよう」
「……いきなり、なに言ってんだよ」
オーウェンの突然のつぶやき。
独り言かと思ったが、俺に話しかけてるらしい。
「いいから聞け。そのお願いはハッキリ言って謎だ。意味不明だ。だが、いくつかの推察を含めるに、彼女はマクスウェル・ダークエコーという人間が好きなのかもしれない、と思えるものだ」
マリーが俺に話しかけて、俺が″ワンチャン″あるかもって思ってしまういつもの愚かな現象のことか。やめて、泣きたくなる。
「どう答えるべきか、俺が教えよう」
「……オーウェンって、たまに頭おかしい前提で話をはじめるよな」
俺は得意げな顔のオーウェンから、特異なシチュエーションに対する対応を学ぶことになった。
⌛︎⌛︎⌛︎
謎、意味不明の頼み。
ここか!
俺はゆっくりまぶたを開き、なぜか頬を染めてソワソワ落ち着きのないマリーを見すえる。
まず、即答しないこと。
頼みの真意を取り違えるといけないから、ハッキリさせること、だったな。
「朝起こし係? それってどんな係なの、マリー」
「っ、ふふ、よかった、興味はあるようね! いいわ、マックスには特別にこの大事なお役目のこと教えてあげるわね!」
マリーはバァっと顔を明るくして、楽しそうに身を寄せてきた。
思わず肩がふれる。
「あ、」
「っ、ごめん」
謝り、ちょっと距離をおく。
マリーは肩を押さえて、「よし……っ!」と謎の達成感をだすと、ニコニコしてこちらへ向き直ってくきた。
「んっん、それでね! 朝起こし係とは、わたしを毎朝、朝のお祈りに間に合うよう、モーニングコールする係のことよ!」
意外にそのままだった。
「この仕事は、わたしより毎朝はやく起きないといけない″過酷な仕事″だけど……マックスになら出来ると信じてる! だってアルス村にいたころは、よく起こしてくれたからね!」
「アルス村にいた頃とは立場が違くない? それって、俺がマリーが寝てるベッドまでいって起こすんだよね?」
「そうよ!」
無理だろ。
本当に、いつ街の男衆に背中刺されるかわかったもんじゃない、″過酷な仕事″じゃん。
第一に神殿が許すはずがないだろうに。
「神殿からの許可はとってるわ!」
あ、取ってたらしい。
となるとオーウェンに助言に従い、次にたずねるべきはーー。
「雇用条件」
「……え?」
「マリー、人を雇うにはお金が必要なんだよ。いくらお
「ぇ、えっと、それはマックスが起こしてくれるならいくらでも出すっていうか…………あのさ、マックスはお金が出ないと、朝起こし係はやりたくない……?」
マリーは不安そうな顔で聞いてきた。
全然そんなことない。
むしろこっちがお金払ってでも、やらせて欲しい。
だが、ここは女子の扱いという
百戦錬磨、イケメン無双。
そんな二枚目を極める幼馴染の助言に従っておかないと、痛い目を見るに決まってる。
マリーはうつむに、残念そうに顔をふせて「月に銀貨1枚なら、どう?」と上目遣いで聞いてきた。
可愛いすぎる。
あやうく
俺はマリーの提案に顔をぶんぶん縦に振って、朝起こし係を務めることを
ああ、ダメだって俺。
オーウェンによれば、仕事を頼まれる場合は労働規約までハッキリさせないとってーー。
マリーはにへら〜っと締まりのない嬉しそうな笑顔を浮かべて、ベンチの隅に俺を追いこんでくる。
彼女に近づきすぎると、神殿がうるさいのだが、幸せそうな彼女の顔を見ていると、俺にはとても席を立つ事などできなかった。
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