雪の中の小さな炎(少女、まよい、思春期)

「雪の中の小さな炎」


『ねえ、雪だよ。雪。外に行こうよ!』

 私の中で、もう一人の私が誘っている。

 時計の針がもうすぐ重なる。

 そんな深夜に、外へ出るなんて……。

「ダメだよ、そんなこと私、出来ないよぉ……」

『真由の意気地なし!だから、学校でも肝心なことがハッキリ言えないんだよ!!』

 私の中の私が、大声で叫んだ。


 ★


 私は、人目がとても気になるし、いつもいい子でいたいと思う。

 だから、こうしたい。やってみたいと思うことも、躊躇して出来やしない。

 言いたい言葉も、飲み込んでしまう。

 いつも、いつも……。

 そんな私を、周りの人は優等生だと言う。

 違うのっ!

 ただ、意気地なしなだけ……。

 勇気がないだけ……。


 おもてでは、雪が静かに降り積もる。

 漆黒の夜空から、

 無数の羽根が舞い落ちるように……。


 ★


 まるい月が天頂を飾るころ、雪は降り止んだ。

 あたり一面銀世界。

 時が止まったかのような静けさ。

 私の心は一つの場所へと向かっていた。

 広い広い、無垢な白雪が広がる学校の校庭へ。

 あそこへ行けば、私は変われるんじゃないか?

 なぜか、そんな気がしていた。

『ねえ、行ってみようよ!』

 心の声に素直に、返事をした。

「うん!」


 ★


 どきん、どきん。

 深夜の微細な音すら雪が吸い込んで、今は心臓のしか聞こえない。

 私は、そんな静寂の中、中学の校庭に忍び込んだ。

 私は、ずっとやってみたかったことをした。

 新雪に足跡をつける、

 一番乗り!

 30cmは降り積もった校庭に足跡をつけながら、ゆっくりと校庭の真ん中まで進んで行った。

 越冬隊な気分。

 そして私は、校庭の真ん中で仰向けに大の字になった。

 白い息の向こうに、

 月が見える……。

 頬が、冷たい……。

 しかし、それは高潮した私の頬を冷やすにはちょうどよかった。

 カゼをひいたら受験に差しさわりがあると、雪の日に外であそべなかった。

 でも、今日はできた。

 私にとってこれは、冒険。

 今までの私では決して出来なかったこと。


 私は、変われたかな?

 ううん、変わるんだ!


 だから、明日こそ言おう。

 私は、進学校じゃなくて、美術科のある学校に行きたいと……。

 雪の白さが、私の煩雑な心を洗い流してくれた。


 足先が、

 指先が、

 少しずつ冷たくなる。

 だからこそ、内にある熱い鼓動を感じることができた。


 この炎を絶やさない。

 忘れない。


 自分が自分であるために。


 ★END★

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