台風の気持ち(台風少年、少女、ちょっと不思議)



 びょおおおおお。

 ザァーー。

 荒々しく、雨風が吹きつける。

 

 ここは放課後の教室。

 急に来た台風のせいで、帰るに帰れずクラスの半分くらいがまだ残っている。

 ドドドドーーンッ!

「光ったよ、今!」

「恐いよ。カミナリ嫌ぁー」

「おい。電車止まったってよ。学校にでも泊まるかなぁ」

 地響きを伴う雷鳴に、教室は大パニック!

 けど、私は不謹慎ながらわくわくしていた。

(早く来い、早く来い! 台風!!)


 私は、かわってるって言われるかも知れないけど、台風が好きだ。

 激しい雨、激しい風、強い雷鳴と閃光。

 憧れているのかも知れない、その力強さに……全てを壊す荒々しさに。

 あっ、でも別にこの世界全部壊れてしまえっ! とか言うあぶない考えを持っているわけではない。

 物を壊して欲しいわけではないんだ、多分……。

 だって、毎日、何の問題もない。

 平穏無事。

 学校は楽しいし、両親の仲も良い。

 勉強も心配ご無用、うちの学校は大学までエスカレーター式。

 いいんだ、これはこれで……。


 完璧な平和。

 変化のない、今日。

 今日と同じ、明日……。

 だから、壊してほしい。

 私の、心の退屈を……。


 ズダドーーーン!

「キャァーー!」

 カミナリの音に驚いた女子が一斉に悲鳴を上げる。

 どさくさ紛れに、好きな男子にしがみつく女子もいて、教室はお祭り騒ぎ。

 私は、うまくそのノリについていけない。

 だって、恐くないんだもんカミナリ。


「お前、恐くないのか?」

 見知らぬ少年が声をかける。

 うちの制服を着てるけど、知らない顔だ。

 だって、これだけかっこよかったら、チェック入れるもん。絶対!

「かわいくないって言いたいの?」

「誰もそんなこと言ってない」

 澄んだ瞳、濡れたようなツヤのある黒髪、落ち着いた声。

 神秘的な風が彼を取り巻いてる。

「あなたどこのクラス? 名前は?」

 私は何となく、彼に興味をもって話しかけた。

 もちろん、笑顔。

「俺は、通りすがりの台風の精霊……」

 げっ! スマイル取り消し、こいつ危ない奴だ。

 さわらぬ神に祟りなし!

 お近づきにならないほうが懸命?!


「……外に出てみないか?」

「どしゃぶりだよ。本気?」

 なに考えてんだろ、変なヤツ。

「恐くないんだろ。この時期の雨は暖かい大丈夫だ」

 挑発するような台詞なのに、彼の瞳は落ち着いて、澄み切っていた。


 こんな瞳、私は知っているような気がする、でもどこでだったろう?

 強い風、強い風が私の髪を舞い上げる。

 誰かが教室の窓を開けたのだ。

 大騒ぎの教室、大騒ぎの私の心。

 おーしぁ! その挑戦のってやる!


 気がついたら、校庭に駆け出していた。

 私だけじゃなくて、クラス全員!

 激しくて、暖かい雨のせいで一瞬で、みんなびしょぬれ。

 けど、みんな笑ってる、大声上げて。

 私も、例外ではない。

 何が面白いわけでもないんだけど、楽しいんだもん!

「これは、お祭りだからな……」

「えっ、お祭り?」

「日本列島に一番乗りした台風だけができる祭りだ」

 そっか、お祭りだからこんな馬鹿なことできるんだ。大雨の中、大声上げて、駆け回るなんて素敵なこと!

 私の退屈は、いつのまにか吹き飛んでいた。

「ありがとう台風さん!!」

 私は、最高笑顔を彼に見せた。

「祭りはいつか終わる…、だから、思いきり遊べばいい……」


 声が枯れるまで騒いで、気がつくと青空が広がっていた。


 彼の姿は何処にもない。

 

 けど、思い出したことがある。彼の瞳。


 この雨上がりの澄んだ空気に似てたんだ!



  ★ E N D ★



******


※ 温暖化の影響などで、最近の台風は勢力が強くて停滞する傾向があるので、大変危険ですので作中のような真似は決してしないように、ご注意ください💦


 

 

 





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