ごちそうさま☆(ヴァンパイア、少女)

らんさんの本日のお題は「ゲーム」、赤裸々な作品を創作しましょう。補助要素は「黄昏」です。



  *


 「ごちそうさま☆」


 黄昏の運ぶ闇は、歓喜する私の心に諭すように語りかける。


――― あなたは、漆黒の支配者。闇の王。はしたなくはしゃぐものではありませぬ。


「ええ、わかっているわ。それでも、新月の夜は自分を抑えられないの」


 白く輝く犬歯をぺろと舐めると、私は長い黒髪をなびかせ夜の帳の中に身を滑らせた。


 私は、吸血鬼。


 今日は、久しぶりのディナーの日。


 これは、ゲームではなく狩り。神聖な儀式なのだと自分に言い聞かせるが、高揚した気持ちは抑えきれない。


「さあ、獲物はどこ?」


 木陰から暗がりでもよく見えるルビーの瞳を凝らし上等な人間を探す。

 男でも女でも構わない。食料となるだけの血をとっても死なない大人なら。

 殺さない、眷属を無暗に増やさないのが私のルール。

 前回は美しい少女の甘い血を頂いたから、今日は栄養のありそうな男性がいいわ。

 あたりを見回していると、不意に肩を叩かれた。


「君、こんな夜中に何をしてるんだ? 危ないだろう」


 振り返れば、背の高い屈強そうな警官が立っていた。


 私の後ろをとるなんて侮れないわ。


 と、よく見れば精悍な顔つきの青年でなかなか私好み。

 私のことを女子高生だと思っているあたりは間抜けだけれど、この本気で心配しいる様子はそそるかも。


 たくさん血を頂いても大丈夫そうだし……。


「君、ぼーっとしてないで、家に帰りなさい」


「帰るところなんてないわ……」


「家出か? とにかく、話を聞こう」



 うん、今日のディナーは彼に決めた!



 私の目線に合わせようと、お巡りさんが屈んだところを見計らい手をすいと横に一閃する。

 催眠の暗示にかかったお巡りさんはとろんと私を見た。


 白い指で少しざらつく顎を撫で上げると召し上がれとばかりに彼が首をそらす。


 その太い首に、左腕を絡ませ抱きつくように私は牙を立てる。

 ゆっくりと沈みゆく牙が頸動脈をとらえると力強い拍動を感じた。


 ――― ああ、命の味だ。


 唇を這わせ思う様にその血を吸い上げる。


 ホットワインのような濃く熱い血が喉元を通る感覚に恍惚こうこつとしていると、彼が倒れこんできた。


「少しいただきすぎたようね。ごちそうさま」


 私は口元の血をぬぐうと、やさしいお巡りさんの頬にお礼の口づけをし、黒髪をなびかせ再び夜の闇ににとけて行った。



・END・


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