第七章(3)以洋、今回の件の結末を悟る
もう一度
病室に一人残された
幾度も手に取り、それでもその度に結局掛ける勇気が出せないまま、また手から離してしまった。
そのどちらなのかがわからないまま、悶々とベッドに横たわる。何遍寝返りを打っても眠ることができない
「どうぞ」
そう期待しながらベッドの上に起き上がる。
ドアを開けて入ってきたのは、なんと
「
思わずベッドから下りようとしてしまい、慌てて彼女に止められる。
「起きちゃダメよ、起きちゃ」
にこやかな笑みを浮かべてそう言いながら果物の籠をサイドテーブルに乗せた
「お礼を言いに来たの。ありがとう、
言いながら泣き出してしまった彼女に、急いで
「泣かないでください。僕はほんとは何もできちゃいないんです。
溜め息を漏らさずにいられない。
涙を拭った
「警察が今日、
「ありがとう。本当にありがとう」
そう繰り返す彼女の顔にはまた堰を切ったように涙が流れていた。
「
「こんなことになったのは全部私のせいだったのね。私が
「
悲しみのあまり自分で自分を許せなくなっている
「お母さんは、ご存知だったんですか……?
悲痛な面持ちで
涙を流し続けている彼女の手を、強く
「僕は……
「ありがとう……、本当にありがとう……」
また感謝の言葉を繰り返し始めた彼女に、
それを見た瞬間にまた胸が痛くなり、張り詰めた糸が切れたかのように
「あ、泣かないで」
慌てた声を出しながら
そんな
「
「あら、どうも」
驚いたように彼女が立ち上がる。
「
遠回しに帰宅を促す
ドアを閉めた
「君が言ってた危険なことってのは、
溜め息混じりにそう訊ねる
「違う。僕が自分で飛び下りるってこと」
「あの時、
言いながらまた嗚咽が込み上げてくる。
「僕は馬鹿だよ。僕は
じっと
「泣くんじゃないよ……。少なくとも君は
思い切り泣きじゃくる
随分時間が経ってからやっと、泣き疲れた
「ごめんなさい。僕、馬鹿なことをした……」
「君は本当に、自分は大丈夫だっていう自信があって、ビルから飛び下りたの?」
力強く
「うん。もっと考慮すべき点はあったかもしれないけど、無事に済むっていうのは本当に信じていたから飛んだんだ。実際に僕は無事だったし、怪我もほとんどないよ」
まだ涙に濡れている
「君の生きている世界がますます理解できなくなってくるな」
やるせなげにそう口にした
「たとえ銃で撃たれても僕は大丈夫だよ」
真剣に告げた
「神懸かってるね」
「うん。だからもしいつか、僕達がデートしてる時にあなたが狙撃されても、僕が楯になれるからね」
言いながらまた涙を零し始めた
「うちに帰りたい」
「あのDVD、ラストまで見たいよ……」
まだ鼻をぐすぐす言わせながら
「わかった。退院手続きをしてくるから、その間に泣き止んでおいて」
「うん」
大きく頷いた
生きていることをこんなにも幸運だと思ったことも、生きていることが今この瞬間ほど幸せに感じられたことも、これまでない。
だからこそ、涙がまた流れる。
どれだけ固く目蓋を閉じても、後から後から涙は溢れた。この幸せを味わう機会を永遠に失った
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